鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~8

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久慈さんはブラウンのメタルフレーム眼鏡を掛け、中分けの髪は社会人ならアウトだけれど大学生ではよくある長さ、顔は特に格好いいでもなく悪いでもなく、特徴と言えばいつも何かを睨んでいるようなその目でしょうか。

 

男性的魅力は、特に無かったような。

少なくとも自分が女子だったら決して好きにならないタイプです。

でも、人は様々。

米野さんは彼が発言するたびにわざとらしいほどに深く肯きます。

それを横目で見つつ、「フフン」と冷めた笑いを浮かべ議論を切り上げる久慈さん。役者じみています。

その、いかにも「俺は場に流されないぜ」的な言動はさすがに自分も「わざとらしいなぁ」と勘付きましたが、それにすら米野さんはクラクラっとしてしまい、彼にぞっこんになっていたのです。

 

さらっと書きましたが、「ぞっこん」、なんでしょう、これ。

手元の国語辞典で調べると「そっこん」が転じたもの。

これじゃあ、意味が分からないのでネットで調べると、「底根(そここん)」が大本のよう。

心底から敬服、または魅力の虜になること、といった意味のよう。

 

そう、まさに米野さんがその状態。

少女漫画で(読んだことあまりないですが)ヒロインが両手を合わせてそれを片方の頬に当てる仕草がよくある気がしますが、米野さんもそれをしているのです。

これ、文章的脚色ではなく現実で起こったことです。

男子校で育った上に、ひたすら孤立して過ごした時間が長かったので、そんな漫画のような仕草をする人を実際に見られるなんて、といくばくかの感動すら覚えました。

 

もちろん今となっては米野さんが例外で、そんなわざとらしくわかりやすい仕草をする人なんてこの社会ではめったにいないことに気付いています。

本当に役者ぐらいです。それも大袈裟に演技をしなければいけない舞台役者くらいかと。……偏見かな……。

 

 

なかなかに興味深い人ではありますが、米野さんだけを見ていたのではありません。

新歓コンパは皆で打ち解けるのが主目的(でしょう、多分)。

自分も自分なりに頑張りました。

始めにサークルに誘ってくれた畑野さんと話せれば幸せだったのですが、彼女は桃野さんや本須賀さんと何やら難しそうな話を始めています。

部室がどうのとか言っているので、サークル運営についての相談のようです。

二年の久慈さんは、「俺は一人で飲んでるから話しかけるな」オーラを出して他を寄せ付けません。

同じく二年の国文科女子・本条さんと理数科男子・築地さんは同学年だから、というそれだけの共通点を結び目とした雰囲気でぼそぼそと話をしています。

 

となれば、自分が話せる可能性があるのは同じ新入生だけということになります。

久慈さんに「ほの字」(という言い方も古い気がしますが)の米野さんは史学部だけれど、国文科の染谷さんと仲良く話しています。

何でも二人は大学付属の女子高からエスカレーター式に上がって来たそうで、高校のクラスが同じだったとのこと。仲が良いのも肯けます。

がしかし、同じ国文科新入生の男子・土屋君と女子・片瀬さんが仲が良さそうに話しているのが不思議かつ羨ましい状態。

サークルの勧誘で部室、というか仕切りで区切られた区画で一緒になった時に意気投合したのだそう。

後々、二人はカップルになります。

 

よって、自分が話せる相手は更に絞られ、史学科の男子ということになります。

何か言うたびに「グフ」と語尾を濁らせる保科君。

「今ここで警察呼んだら、先輩たちが未成年者に飲酒を勧めた罪で捕まるんだよね?グフフ」という具合です。

考え方が物騒ですし、雰囲気も不気味です。

でも、それが自分には合っていた。

考え方がいびつですし、雰囲気が真っ暗でしたから。

暗闇と不気味、調和するものです。