鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~9

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新歓コンパ、コンパ=交際という意味では成功したのだと思います。

それぞれの人となりを表面上ではあれ知ることが出来たのですから。

 

その年に出来た新しいサークルなので四年生はいません。

四年になって新しいサークルに入っても就活や卒論に追われているし、そもそも仲間が出来てもすぐに卒業です。だからいないのでしょう。

よって三年生が最上級生になります。

とはいえ、名簿にある三年生全員がコンパに来たのではないそう。

確かに名簿には三年生五人の名前がありましたが、居酒屋の店内にいるのは桃野さん、畑野さん、本須賀さんの三人だけ。

桃野さんが言うには、新規でサークルを立ち上げて学校に認めてもらうには、最低でも五人のメンバーが必要なので友人に名前を貸してもらったらしいのです。

ただ、まったくの名義貸しのみというのでもなく、活動が本格的に始まれば今は名前だけの人もサークルに参加するとも言います。

よくある、「みんなが行くなら行く」、「都合が合えば行く」というのと同種の儚い言葉。

当時の無垢な(今と比べれば)自分は、それらの言葉がヘリウムより軽いような言葉だと知らずにいたのだけれど。

それにしても、「人」の「夢」と書いて「儚(はかな)い」との読みを与えた先人たちのセンスに脱帽です。センスの良さと、残酷さとに。

 

小規模なサークルでしたが、それなりに人間関係は複雑な様子。

まず三年から言えば、畑野さんと本須賀さんは付き合っているっぽい感じ。

優しくて面倒見が良さそうな人だと思っている畑野さんに恋人がいたことは少し残念な気もしましたが、片思いと言えるまでの強い思い入れは無いので、そんなものなのか、とあっさり割り切りました。

 

 

二年生の国文科女子・本条さんは小柄でふっくらとしていて、人好きのするタイプです。真面目過ぎないほど真面目で、小学生の時の宿題は八月の登校日までには必ず終えている、中学、高校と、夜外で遊んでいても、随時親に連絡を入れていたのだろう様子が思い浮かびます。

そんな彼女が話している相手の理数科男子・築地さんはコンパクトな体形ではあるものの、端正な顔をしていて、でも自分と似た匂いを感じます。つまり暗いのです。自分がそれだけの容貌を持っていればもっと積極的になれるのになぁ、と思ったのを覚えています。

本条さんと彼とは、特に仲が良くも悪くも見えず、言葉のやり取りもただただ情報交換をしているだけ、という風に見えます。

 

史学科一年の米野さんは相変わらず、テーブルの端にある割りばし入れをクールにガンつけている理数科二年の久慈さんの横顔にキラキラした視線を送り続けています。

そして同じ一年、同じ国文科男子・土屋君と国文科女子・片瀬さんのイチャイチャ具合は急激に増していました。

土屋君が片瀬さんの取り皿に取り分けたポテトピザを二人で同時に口に入れて笑顔を交わし合っています。見ているこちらが赤面するほどに初々しいカップルという感じ。

「いいなぁ……」

声に出ていたかもしれません。

二重瞼で色白であり、それでいてどことなく男、いや漢らしい、同性愛者からも愛されそうな土屋君と、ぱっと見では目立たないけれど、じっくり見てみると結構綺麗目な小柄な片瀬さんとはお似合いな感じがまた羨ましい。

日陰者の自分から見れば、彼らは地下にある居酒屋にいるのに、燦々と輝く真夏の太陽の元にいるかのように眩く、目を細めなければ網膜にまともに像を結べなさそうなほどです。

 

そういったこちらの心境を意に介さず、「チェーンの居酒屋のつまみって、ほとんどが中国産らしいよ、グフ。みんな、家では無農薬がいいとか、国産がいいとか言ってるのにね、グフフ」とどこか外れた話をする保科君。

内容の真偽はともかく、この会話のかみ合わなさ、自分にとって好ましいものです。

かみ合うと、今度は外れてしまうかも、という恐怖感が付きまとうから。

後ろ向きな理由です。

 

猫背で肌は浅黒く、出っ歯でどことなくねずみ小僧のような外見の彼にとって話し相手は誰でもよかったのかもしれません。

周りのサークルの人たちをこれだけ仔細に観察しているのだから、自分は熱心な聞き手ではありえません。

それでも保科君はペースを変えずに早口で自分の意見を述べ立てているのですから。