軌跡~ある教員サークルの興亡~18
大学生活が一ヶ月、二ヶ月と過ぎて、日差しも強くなり、小さな新芽だった木々の葉も立派に成長し、日光をしっかり遮って黒々とした影を地面に落とすようになりました。
そんな季節のうつろいに取り残されているのが自分。
浪人時代と同じく孤独な生活を続けています。
変化のないままに、ただ日々の学課をこなすだけで単調な日々を積み重ねていました。
周囲はと言えば、手を抜ける授業、出席確認の甘い教授、来年度に回してもいい単位と、早々に講義の取捨選択を行い、サークルや部活動、同性交友、純異性交遊や不純異性交遊に精を出すようになっていました。
四月の頭に履修登録した授業すべてに馬鹿正直に出席しているのはごく少数です。
生真面目な人か、遊ぶ相手のいない陰気な人か、余程の暇人かといった種類の人だけです。
その三要素すべてに当てはまる自分は、ただ教科書を音読しているだけの経済学Aの教授の声を聴きながら、予備校のチューターである白山さんは今頃どうしているだろうと、愛しい女性に思いを馳せていました。
「河合君なら大丈夫だよ」と、志望校に対して太鼓判を押してくれた彼女。
その言葉を信じ、また、嘘にしたくなくて一層勉強に精進した日々。
幼いころの、何でも楽しかった時の記憶のように、輝きを伴って思い出されます。
その結果として、自分が去年望んだとおりの場所にいる。
とても不思議な感覚でした。
求めよ、さらば与えられん。聖書にそうあったと思います。
まず望む。そうすれば結果が付いてくる。それが実現したのです。
それまでの困難や失敗続きの人生と引き比べてみると、嘘のように滑らかな成り行きです。
もっとも浪人時代に思い描いていた、友達や恋人と過ごすキャンパスライフからは何光年も隔たった場所にいるので、全部が全部うまくいったというのではありません。
ただ、そう出来得る土台の上には乗れたとも考えられ、それならばやはり順調だったと言えるでしょう。
おそらくそれで勘違いしてしまったのです。
求めれば、与えられる、と。