鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~20

前述したとおり、予備校では卒業式の代わりに合格祝賀会が開かれます。

そう仰々しいものではなく、空き教室のテーブルの上にサンドイッチやスナック菓子、ソフトドリンクやお茶のペットボトルを並べた簡素なものです。

参加者は、在校生の数からすればかなり少ない割合だったと思います。

自分が属していた私立文系コースは、生徒数200名ほどでしたが、会への出席者は三十人に満たないほどでした。

寂しいとは思ったものの、人数が少なければ少ないほどライバルは減ることになります。

何のライバルか。もちろん恋のライバルなどと分不相応なことを申しません。

白山さんからお言葉をいただくライバルです。

 

会の開催時間は一時間半。出席者が三十人ですから、90分割ることの30で、一人に割り振られる時間は三分。机上の空論ですが、その時は真剣でした。

不測の事態が起きて、たとえ半分になっても一分半。90秒。

「こんにちは」、「ありがとうございます」、「お世話になりました」の三点セットは言いたい。それらを述べたとして、残りは約70秒。何を話すか迷いました。

中学、高校とトンネルのように暗い青春を送った自分です。

人と会話をする日の方が珍しいという生活。

だから気の利いた言葉を言える自信がありませんでした。

 

 

教室の前の方で白山さんじゃないチューターが、合格のお祝いと共に祝賀会開会の口上を述べました。

それからは、各自銘々に食べ物をつまんだり、飲み物をのんだりしながら、友達やゲストで来てくれた講師、それからチューターとの歓談となります。

自分はといえば、白山さんと話すのが最大かつ唯一の目的。

さて、何を話そうかと思考の堂々巡りにはまりつつ、サンドイッチを食べて白山さんの姿を求めました。

するとすぐ後ろから、「そのサンドイッチ、メルヘンのだよ」との女性の声。

聞き違えようのない、年の割には(正確な年齢を知りませんが)幼く聞こえる高い声。

「白山さん……」

それまで積み重ねてきた思考が、一気に二つ三つ先の山の彼方に吹っ飛びました。