鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~58

 

時計を見ると午後五時。

そろそろ夕食のことを考えてもいい時間です。

その自分の考えを読んだわけではないのでしょうが、助手席の畑野さんが同じタイミングで、「晩御飯ね、二人を連れて行きたいところがあるんだ」と、後部座席を振り返りながら言いました。

 

「晩御飯ていうか、デザートがメインだよな」

本須賀さんが横から口を挟みます。

「そうそう、ケーキバイキングに行きたいんだ」

それを聞いた米野さんが、「ケーキバイキング!」と喜びの声と共に、乙女チックに体の前で両手を合わせるポーズをします。

こんなに痩せていても、甘いものが好きなんだ、と意外に思いました。

 

 

「河合君もいい?甘いもの苦手じゃない?」

「苦手どころか、大好きです」

味覚は子供のままなので、大歓迎でした。

年を取ると、辛口のものや苦いものが好きになると言いますが、未だに理解できていませんし、そうなっていません。

確かに幼少期に比べ、美味しいと思うものの種類は増えました。

野菜スティックにしても、子供の頃は義務的に食べていたものを、今ではほのかな甘みを楽しめるようになりました。

山菜の淡い味わいも捉えられるようになっています。

素材本来の味を感知できるようにはなったのでしょう。

それを大人の味覚だと言えるならば、自分だって大人です。

ただ、甘いもの、カレーやハンバーグは引き続き大好きで、山菜や野菜の煮物などを抜いて好きな食べ物ランクの上位に位置し続けています。

とはいえ、辛いもの、苦いものが好きになったかと言うと疑問です。

カレーだって辛口は食べられませんし。

だから、味覚が変わったというより、味を知覚できるすそ野が広がっただけと言った方が正確でしょう。

 

「飲みでも、河合は甘いものをよく飲んでたもんな」

本須賀さんがそういう通り、自分は大体一杯目のビールを飲んだ後は、カシスソーダやモスコミュール、スクリュードライバーといった、ジュース感覚で飲めるものを選んでいました。

やはり、嗜好が苦いものより甘いものへ偏っているためです。

日本酒やビール、焼酎も飲めないことはありませんが、大学時代から今に至るまで美味しいと思ったことがありません。

美味しいと言っている人は、そう言いたいだけ、そう言って背伸びしたいだけと疑わしく思っているのですが、真相はいかに。