軌跡~ある教員サークルの興亡~60
いざ会計へ行くと、一人4,300円。
実に学食の日替わりランチの十倍です。
小さい頃は、家族とも外食に行っていたので、その価格が理解できないほど高いのではないと知ってはいます。
が、更にケーキバイキングを控えての、大学一年生の出費として見てみると、破格に近い値段である気がします。
ドキドキする鼓動を押し殺しつつ支払いを済ませ、車に戻ってからは次の店が安くあることを願いました。
自分はケチではないと思います。
とはいえ浪費家とも言えず。
物を買う時は厳選します。
身に付けるものにこだわりがないし、食事にも興味がなく、趣味らしい趣味と言えば読書くらいです。
お金がかからない性格なので、いざそれを使うとなると慎重になってしまうのかもしれません。
要はお金を使い慣れていないからです。
学生時代に何にお金を使ったかと考えると、一番はやはり本だと思います。
貯金をお金の使い方に入れていいのならば、それが一位になります。
後に留学したり、大学院へ行ったりするのですが、それらは全部自費で賄えたので、貯蓄はうまかったのか、と考えましたが違うのでしょう。
結局のところ、お金の回し方が下手なだけだったのです。
つまらない学生生活、つまらない人生になるのももっともです。
華やかな娯楽にお金を使うことをしなかったのですから。
本須賀さんが運転する車は都心を行きます。
昼にバーミヤンへ寄った時に感じた、大学生だから金銭感覚は似たようなもの、との親近感は一切合財無くなっています。
本須賀さんと畑野さん、そして米野さんが異なる階級の人種に見えています。
貴族です。一般大衆の自分から見れば。
現に道路の上の案内板には赤坂とか書いてあります。
赤坂……。
また、地価が高い、つまりは高級な店しかないような通りを走っているな、と思いきや、なんとそこでスピードが落ちるじゃないですか。
窓からは、首を上向けても頂点の窺い知れない高層ビルが間近に見えます。
その威容、記憶にあります。
まさかとは思いましたが、車はその駐車場に入っていきます。