鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~143

 

一応桃野さんたちも、我々が入学した六月くらいまではメンバーを増やそうとしていた気もします。

サークル募集の掲示板にポスターを貼ったりしていました。

でも、それにはあまり熱が入っていなかったように思えます。

性欲を原動力に立ち上げたサークルにおいて、中心メンバーの桃野さん、本須賀さん、畑野さんは、それぞれの性のはけ口となる一年生が揃ったと見て、もう人員は十分と判断したのでしょう。

土屋君の言うように、スワッピングで自分たちの気持ちを高め合う本須賀・畑野コンビは不完全ながら目的を達しました。

やがてこの二人は卒業後に結婚し、二人の子を儲けます。

在学中から十年程度続いた畑野さんとの年賀状のやり取りで、それを知りました。

倒錯した性癖がそう簡単に治るとは思えないので、本当に二人の間に出来た子かと意地悪く考えることもありますが、それは歪んだ見方でしょうか。

 

 

桃野さんはと言えば、自分が知る限り在学中に畑野さん以外の異性と付き合えたことはないはずです。

サークルが消滅後も、そしてあれだけな目に遭いながらも片瀬さんは桃野さんと連絡を取り合っていて、隙あらば告白されたそうですがうまく捌き続けたそう。

それは卒業後も続き、彼が別の女性と結婚してやっと終わったとのこと。

正直言って、よく結婚出来たな、というのが自分の感想です。

精神を病んだ自分から見ても、もっと狂ってるように見える桃野さん。

世界は広いので、彼をも許容できる女性がいたのでしょうか。

都立高校の国語教師になったというので、一応は公務員。

その安定性に惹かれたのかもしれません。

それでも物好きに思えますが。

 

物好きと言えば片瀬さんもそうです。

どうして特に好きでもない、むしろ毛嫌いしている桃野さんと連絡を取り続けていたのか疑問でしたが、土屋君が答えを教えてくれました。

「見ている分には楽しいからだってさ」

大学卒業後、一度は地元の関西で就職した彼は、二年会社に勤めた後に転職し、今度はこちらの地元に近い場所に住むようになっていました。

結婚もし、二人の子宝に恵まれています。

話を聞いたのは、渋谷のルノアールで落ち合った時です。

土屋君も大学三年までは片瀬さんと一応恋人同士でいましたが、四年になると別れ、ファミリーレストランのアルバイト先で出会った年上の女性と付き合い始めました。

やがて秋くらいに彼女を妊娠させてしまい、中絶費用を全額支払って別れたと言います。

破局の理由がそこにあるのか、踏み込んでも訊けない自分です。

ともあれ、なかなかドラマチックに生きていたよう。

 

「香奈も一度かなり年上のトランペット奏者と結婚したけど、すぐに別れて今は別の男と同棲してるって言ってたな」

久しぶりに会った時も、土屋君はアイスロイヤルミルクティーのグラスを前に話しています。

「トランペット奏者とどこで出会うの?しかもかなり年上って」

自分も同じ飲み物を前に質問します。

約七年前にドトールで話した時よりも、会話の内容が遥かに入り組んでいます。

年を取ると、そうそう単純には生きられないのか。

難しいことを何も考えていなかった過去が懐かしく思われます。

「行きつけの居酒屋で会ったって言ってたな。あいつ、俺と別れる時には『私は他の人と付き合わないと思う。一生ね』って言ってたんだけどな」

土屋君がそういった時に、憂いとも安堵とも取れる表情が見えた気がします。

 

「本須賀さんと畑野さんが結婚したのは順当だろうな」

「変態同士だし」

「相変わらずエグい話し方をするな」

そんな会話の中で桃野さんの結婚話も語られたのです。

他の教員サークルメンバー、仁部さん、久慈さん、築地さん、本条さん、米野さん、染谷さんが何をしているのかは二人とも知りませんでした。

在学中から既に関係が薄くなっていたので、それも仕方ありません。