鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~101

 

とにかく酔い潰れて口が滑って今聞いた話を誰かに話さないようにしよう、と志の低い目標を立てたところで、本条さんがふと顔を正面に向けました。

向かいのホームに畑野さんが立っていて、こちらに手を振っています。

ついさっきまでは無人だったので、今着いたばかりのはずです。

それでも、スキャンダラスな噂の当人を目の当たりにすると、後ろめたさが通常の良心の痛みを超えて胸に刺さります。

本条さんもそうなのか、ポシェットにしまった扇子を再び取り出して顔を煽ぎ始めました。

 

跨線橋を渡って我々が座っているベンチに来ると、畑野さんは自分と本条さんの間に一つ空いていた席に座りながら、「何もなかったなぁ」と報告しました。

電車が来るまであと十分ほどになっています。

桃野さんに、友達と同時に口説かれたという本条さん。

桃野さん、仁部さん、本須賀さんと、オトコを換えてきたという畑野さん。

その二人と一緒にいるのは気詰まりでしたが、今から自分も駅の外へ散歩に行くのも不自然な残り時間になってしまっています。

 

 

そんなことでオロオロ迷っている傍らで、畑野さんと本条さんはと言えば、日焼け止めを塗って来たかどうかについて仲良さそうに喋っています。

陰で相手の秘密を自分に暴露した様子など、チラリとも窺わせません。

女の人って怖い、実感としてそう思いました。

 

その日の夜にも模擬授業はありました。

今回は桃野さんと本須賀さんが、ごく普通の高校でするような、ごく普通の国語と日本史の授業を行い、その出来について皆で話し合うといった、いつものサークル活動と同じものです。

盛り上がる内容ではないですが、いつものメンバーにS大学の四人が加わっているためか、どこか浮足立っています。

緊張のためか、気合が入り過ぎているためか、はたまた別の理由のためか。

桃野さんに限って言えば、早いとこ飲みに移って昨夜のような猥談をしたくてたまらないのがうっすら伝わってきます。

だから授業の検討もなおざりになり、早々に切り上げることになりました。