鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

軌跡~ある教員サークルの興亡~132

「知ってるか?畑野さん、あの男共全員と付き合ってたんだぞ」 「知ってる。本条さんから聞いたから」 そう言うと、土屋君は「本条さん?」と意外そうな顔で言いました。 だから自分は合宿の駅のホームでのことを説明しました。 その後、畑野さん自身が桃野…

軌跡~ある教員サークルの興亡~131

「うん……。しない」 こちらとしても、なんとでも取れる返事をせざるを得ません。 「だろ?恋人がちゃんといる女としっぽりうまくやるなんてできないよな」 「うん、関わりたくない」 しっぽりという言葉がいやらしさを感じさせるので、はっきり拒絶しました…

軌跡~ある教員サークルの興亡~130

「好きな異性のタイプは『ピュア』ってあったな」 そう書いた気もします。 面と向かって言われると恥ずかしいものです。 「よく覚えてるね」 本人も忘れていたことです。 「まあな」 そこで土屋君は照れくさそうな表情を浮かべました。 その時、その場では気…

軌跡~ある教員サークルの興亡~129

同じ週の金曜日の午後、土屋君と共通で取っている講義があり、それが終わると「茶でも飲みに行かないか」と誘われました。 (まるで友達同士みたいじゃないか) それくらい自然に誘ってくれるので、彼が本当に自分を友達と見てくれていると感動します。 いち…

軌跡~ある教員サークルの興亡~128

その日のサークル活動は、仁部さんが早速模擬授業を担当しました。 本条さんが褒め称えるだけあって、彼の授業進行は滑らかで、生徒役のメンバーの意見をうまく引き出し、即座にそれを講義内容に織り込む手腕など現代国語の教師として理想的です。 こんな教…

軌跡~ある教員サークルの興亡~127

本条さんはこうも言っていたはずです。 畑野さんが本須賀さんの前に付き合っていた男が仁部さんだったと。 そう聞いた時には、スマートで誰からも好かれそうな爽やか男子を思い浮かべていましたが、自分のその想像に当てはまる要素が実物の彼にはどこにもあ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~126

そのようなことがあった次のサークル活動日、気まずいし、気が重くはあります。 酔った勢いでしたことならば冗談に出来るでしょうが、あの夜、自分は明晰と言ってもいいほど意識を正常に保っていました。 土屋君提案のヨーグルト被膜の霊験によるものでしょ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~125

二人が並んで外に出ると、本須賀さんが「遅いぞ、何やってんだよ」と、芝居がかった態度で不平を漏らします。 「いやー、悪い悪い。ちょっと男同士の話があってな」 さすが二年も無駄に生きていません。 緊迫した空気を即座に洗い落とし、桃野さんはこちらの…

軌跡~ある教員サークルの興亡~124

それで、こちらが本気で怒っていると思い至った桃野さんは鋭い目で見返して来ました。 にらみ合いは随分長く続いた気がします。 二十秒から四十秒、そのくらいです。 彼の方が頭半個分背が高いので見上げる形になっていましたが、一歩も引くつもりはありませ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~123

桃野さんが染谷さんに絡みだした時から、自分の堪忍袋の緒がチロチロと燃えていたのが、そこに来て焼け落ち、切れてしまっていたのです。 それまでの人生で怒ったことがないとは言いません。 でも、思い返せばそれらの怒りはただの癇癪。 お子様の怒りです。…

軌跡~ある教員サークルの興亡~122

ですが、酔っ払った桃野さんは、公園で遊んでいる時にふと触った木から滲み出ていた樹液のように粘りがあり、しつこくべた付いてきます。 その粘着性は、今度は染谷さんに向かいました。 「染谷はどうなんだ?河合にじっとり見られてるんだぞ。いつもな」 話…

軌跡~ある教員サークルの興亡~121

けれど桃野さんがこちらに向けた矛を収めたわけではなかったのです。 一つの話題が出て、それが途中で有耶無耶になり、また新しく別の話題が持ち上がる。 何度かそのサイクルが繰り返された後に、桃野さんがこちらに目を向けました。 「河合は染谷のことが好…

軌跡~ある教員サークルの興亡~120

行く先の違う二人が同じ場にいて、それらの道が平行線ならばいいものの、そうでないならば、ところどころで交差する部分が出て来ます。 そこで衝突が起こります。 桃野さんも、自分のいやに冷めた様子から、本須賀さんたちの三角関係を知っていると気付いた…

軌跡~ある教員サークルの興亡~119

酒宴が進行する中、何かいつもと違うと感じました。 土屋君が顎のニキビを潰し、湧いてくる血をおしぼりに等間隔に染み込ませていることによる違和感ではありません。 三年生同士の会話があまりないのです。 さらにじっくり観察していると、これまで散々桃野…

軌跡~ある教員サークルの興亡~118

気温も落ち着き、風の中にも爽やかさが感じられるようになってきた十月上旬。 サークル活動後、いつものように飲み会が開かれました。 「今日は飲むからな。徹底的に付き合えよ」 桃野さんが自分と土屋君の肩に片手ずつ置いて、覚悟を促します。 土屋君とは…

軌跡~ある教員サークルの興亡~117

渋谷では車内の乗客の八割ほどが降り、代わりに乗ってくる客はそう多くありません。 座席は満員でしたが、立っている人はそれまでよりずっと少なくなっています。 考えてみれば、新宿とは逆方面の渋谷から先へ行くのは初めてでした。 見慣れない景色に、ごく…

軌跡~ある教員サークルの興亡~116

「でも、本須賀さんは畑野さんと付き合っているよね?」 「そう、だよ」 訳がわからなくなってきました。 「さっき、米野さんは本須賀さんと付き合っているって言ったよね?」 「うん、言った」 「そして今も本須賀さんと畑野さんは付き合っている、と?」 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~115

会話が色恋方向へ行くので、その流れに乗ることにしました。 「米野さんは最近誰かと付き合ってるの?」 夏休み前に久慈さんと別れたばかりです。 (まだ全然そんなことないよ)的な返答を予期していましたが、意外にも「うーん、一応ね」との答え。 「え………

軌跡~ある教員サークルの興亡~114

結局一時間以上話し合っても、これという提案が出なかったため、また二人各々で考えることにしてカフェを後にしました。 特に学校に用事はないので、そのまま帰ることになったのですが、米野さんが品川に用があると言うので、途中まで一緒になりました。 同…

軌跡~ある教員サークルの興亡~113

一時間ほど話しましたが、これといった案は出ません。 「難しいね。ミニ模擬授業でいいと思うけど」 そう言うと米野さんは、両手で口を覆って短く目を瞑りました。 「ごめん、あくびしちゃって」 言われなければ気付きませんでした。 退屈させているかと、小…

軌跡~ある教員サークルの興亡~112

「何か考えとけって言われても、学祭なんてまともに参加したことないから……」と米野さんに言いながら、暗い思い出が蘇ってきました。 高校二年の学祭の時、クラスでサスペンス映画を作ったことがあります。 出演は皆嫌がりました。 もちろん自分も。 でも、…

軌跡~ある教員サークルの興亡~111

その日、空は高くまで晴れ渡り、清々しくはあるものの、日差しにまだ夏の残りがあるため気温は高かったと記憶しています。 自分は米野さんと共に、学食の二階にあるカフェテラスでアイスティーを飲んでいました。 デートのように見えますが、まったくもって…

軌跡~ある教員サークルの興亡~110

「桃野さんはプレイボーイなんですか?」 無邪気に訊くMさんに、「プレイできないボーイです」と即答してしまいました。 手を握られて上気しており、言葉を抑える弁が働きを失っていたのです。 自分以外の三人が失笑を漏らします。 畑野さんが笑うと、握った…

軌跡~ある教員サークルの興亡~109

畑野さんの手に力が入りました。 まるで、私の味方でいて、と言っているよう。 本当にそう思っているのかもしれません。 手と手を繋ぐことで思いが伝わる。 だから恋人同士は、いつも手で繋がっていようとするのか。 // 「そうですね。私も、あと私の友達も…

軌跡~ある教員サークルの興亡~108

「へー、かなり人間関係入り組んでいるんですね」 Mさんも、ひと息ついて落ち着いた口調で言います。 代わりに今、自分が内心で取り乱しています。 「桃野君が入り組ませている張本人なんだけどね」 畑野さんがそう言うのと同時に、彼女の指がこちらの指の間…

軌跡~ある教員サークルの興亡~107

「桃野さんて、酔うといつもああなるの?」 Mさんが尋ねました。 「大体そうだよね?」 畑野さんが言ったので、本条さんが肯き、自分も続きます。 その時、束の間横へ顔を向け、畑野さんと視線が絡みました。 何か意味ありげで、艶っぽさを感じた風に思いま…

軌跡~ある教員サークルの興亡~106

気になるのは、こちらの太ももに畑野さんの爪先が当たっていることです。 片瀬さんが話し始める前はちょこちょこ当たったり離れたりしていたのですが、今では完全にくっついています。 畑野さんは気付いていないのか? 確かめたくても自分が意識し過ぎなだけ…