鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~

軌跡~ある教員サークルの興亡~144 終

教員サークルに所属していた一年生で、土屋君や片瀬さん以外に大学卒業後の動向が唯一わかっていたのは、意外にも保科君でした。 彼とは自分が一年迷走した挙句に大学院へ進んだ時に、学内で出会いました。 書き忘れていましたが、軍事オタクと共に彼の特徴…

軌跡~ある教員サークルの興亡~143

一応桃野さんたちも、我々が入学した六月くらいまではメンバーを増やそうとしていた気もします。 サークル募集の掲示板にポスターを貼ったりしていました。 でも、それにはあまり熱が入っていなかったように思えます。 性欲を原動力に立ち上げたサークルにお…

軌跡~ある教員サークルの興亡~142

はじめはチェーンを付けたまま、ドアを開けてその隙間を通して話をしていたのですが、桃野さんの声が大きく、他の部屋や近所の迷惑になると考えた片瀬さんは、彼を部屋に入れてしまったのでした。 でも、片瀬さんだって無防備ではありません。 土屋君に連絡…

軌跡~ある教員サークルの興亡~141

それにしても、と大学一年時代を振り返り見ます。 教員サークルとはいったい何だったのか。 真面目な皮を被っていますが、内実はいわゆるヤリサーだったのでは、と考えてしまいます。 異性交遊、特に不純異性交遊を志向したサークルです。 もちろん一時期世…

軌跡~ある教員サークルの興亡~140

「必ずしもそうじゃないと思うぞ。繰り返すけど、お前はまともなんだよ。俺なんかよりずっとな。確かにこのサークルにはまともな奴は俺と河合だけだ。でも、お前は別格なんだよ」 「それはどっち方面に?上?下?」 「上下じゃ計れないな。別次元でだ」 「そ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~139

「河合は他に友達がいないから、誰かに漏らすってこともないしな」 (ああ、それでか)と深く納得します。 片瀬さんが、自身の心の病気を誰かれ構わず知らせたいと思うはずがありません。 知られていいとしたら、人形やぬいぐるみのように話を聞くだけの相手…

軌跡~ある教員サークルの興亡~138

「香奈が普通の女の子だったら、そんなにも深い絶望に落ち込むこともなかったかもしれん」 土屋君が言いますが、何を意図しているか掴めません。 「普通の女の子、じゃない?」 「違うんだ、香奈は……」 彼はグラスを持ち上げましたが、もう氷も水も残ってい…

軌跡~ある教員サークルの興亡~137

「そう。その食事の後、香奈にも言ったんだよ。あいつには気を付けろって。でもあいつは信じなくてさ。ちょっとした喧嘩もしたよ。すぐ仲直りしたけどさ」 そこで土屋君は苦笑いを浮かべました。 自虐的に見える笑みです。 「仲直りって言っても、俺が全面的…

軌跡~ある教員サークルの興亡~136

土屋君は打ち明けるかどうかを迷っているのか、ほぼ氷だけになっているグラスを傾けて底に薄く残った薄茶色の水をストローで吸い、唇を湿らせました。 その間手持無沙汰な自分は、店内を何となく見渡したり、BGMが流れていたことに驚いたりしていました。 そ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~135

「そのスワッピングを本須賀夫妻がしていると?」 自分が訊くと、土屋君は笑って「そう、あの夫妻がな」と乗ってくれました。 「だから、河合も危ないところだったのかもな。そのスワッピングに巻き込まれそうになったんだから」 「自分は米野さんと付き合っ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~134

「ねぇ」 と、その時もそう言いました。 「畑野さんが桃野さん、仁部さん、本須賀さんと男を替えて来た理由は訊いた?」 「相変わらずエグいところを突くな。そこは訊けなかったけど、大体わかる気がするぞ。河合が畑野さんの立場だとしたら、桃野さんと付き…

軌跡~ある教員サークルの興亡~133

「頭おかしいって、どうして?」 「お前も知ってるんだろう?本須賀さんと米野さんがヤったってこと」 「あー、うん。……知ってる」 米野さんから口止めされていないのを思い返しつつ言いました。 内容が内容だけに、秘密にするのが当然だと思っていましたが…

軌跡~ある教員サークルの興亡~132

「知ってるか?畑野さん、あの男共全員と付き合ってたんだぞ」 「知ってる。本条さんから聞いたから」 そう言うと、土屋君は「本条さん?」と意外そうな顔で言いました。 だから自分は合宿の駅のホームでのことを説明しました。 その後、畑野さん自身が桃野…

軌跡~ある教員サークルの興亡~131

「うん……。しない」 こちらとしても、なんとでも取れる返事をせざるを得ません。 「だろ?恋人がちゃんといる女としっぽりうまくやるなんてできないよな」 「うん、関わりたくない」 しっぽりという言葉がいやらしさを感じさせるので、はっきり拒絶しました…

軌跡~ある教員サークルの興亡~130

「好きな異性のタイプは『ピュア』ってあったな」 そう書いた気もします。 面と向かって言われると恥ずかしいものです。 「よく覚えてるね」 本人も忘れていたことです。 「まあな」 そこで土屋君は照れくさそうな表情を浮かべました。 その時、その場では気…

軌跡~ある教員サークルの興亡~129

同じ週の金曜日の午後、土屋君と共通で取っている講義があり、それが終わると「茶でも飲みに行かないか」と誘われました。 (まるで友達同士みたいじゃないか) それくらい自然に誘ってくれるので、彼が本当に自分を友達と見てくれていると感動します。 いち…

軌跡~ある教員サークルの興亡~128

その日のサークル活動は、仁部さんが早速模擬授業を担当しました。 本条さんが褒め称えるだけあって、彼の授業進行は滑らかで、生徒役のメンバーの意見をうまく引き出し、即座にそれを講義内容に織り込む手腕など現代国語の教師として理想的です。 こんな教…

軌跡~ある教員サークルの興亡~127

本条さんはこうも言っていたはずです。 畑野さんが本須賀さんの前に付き合っていた男が仁部さんだったと。 そう聞いた時には、スマートで誰からも好かれそうな爽やか男子を思い浮かべていましたが、自分のその想像に当てはまる要素が実物の彼にはどこにもあ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~126

そのようなことがあった次のサークル活動日、気まずいし、気が重くはあります。 酔った勢いでしたことならば冗談に出来るでしょうが、あの夜、自分は明晰と言ってもいいほど意識を正常に保っていました。 土屋君提案のヨーグルト被膜の霊験によるものでしょ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~125

二人が並んで外に出ると、本須賀さんが「遅いぞ、何やってんだよ」と、芝居がかった態度で不平を漏らします。 「いやー、悪い悪い。ちょっと男同士の話があってな」 さすが二年も無駄に生きていません。 緊迫した空気を即座に洗い落とし、桃野さんはこちらの…

軌跡~ある教員サークルの興亡~124

それで、こちらが本気で怒っていると思い至った桃野さんは鋭い目で見返して来ました。 にらみ合いは随分長く続いた気がします。 二十秒から四十秒、そのくらいです。 彼の方が頭半個分背が高いので見上げる形になっていましたが、一歩も引くつもりはありませ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~123

桃野さんが染谷さんに絡みだした時から、自分の堪忍袋の緒がチロチロと燃えていたのが、そこに来て焼け落ち、切れてしまっていたのです。 それまでの人生で怒ったことがないとは言いません。 でも、思い返せばそれらの怒りはただの癇癪。 お子様の怒りです。…

軌跡~ある教員サークルの興亡~122

ですが、酔っ払った桃野さんは、公園で遊んでいる時にふと触った木から滲み出ていた樹液のように粘りがあり、しつこくべた付いてきます。 その粘着性は、今度は染谷さんに向かいました。 「染谷はどうなんだ?河合にじっとり見られてるんだぞ。いつもな」 話…

軌跡~ある教員サークルの興亡~121

けれど桃野さんがこちらに向けた矛を収めたわけではなかったのです。 一つの話題が出て、それが途中で有耶無耶になり、また新しく別の話題が持ち上がる。 何度かそのサイクルが繰り返された後に、桃野さんがこちらに目を向けました。 「河合は染谷のことが好…

軌跡~ある教員サークルの興亡~120

行く先の違う二人が同じ場にいて、それらの道が平行線ならばいいものの、そうでないならば、ところどころで交差する部分が出て来ます。 そこで衝突が起こります。 桃野さんも、自分のいやに冷めた様子から、本須賀さんたちの三角関係を知っていると気付いた…

軌跡~ある教員サークルの興亡~119

酒宴が進行する中、何かいつもと違うと感じました。 土屋君が顎のニキビを潰し、湧いてくる血をおしぼりに等間隔に染み込ませていることによる違和感ではありません。 三年生同士の会話があまりないのです。 さらにじっくり観察していると、これまで散々桃野…

軌跡~ある教員サークルの興亡~118

気温も落ち着き、風の中にも爽やかさが感じられるようになってきた十月上旬。 サークル活動後、いつものように飲み会が開かれました。 「今日は飲むからな。徹底的に付き合えよ」 桃野さんが自分と土屋君の肩に片手ずつ置いて、覚悟を促します。 土屋君とは…

軌跡~ある教員サークルの興亡~117

渋谷では車内の乗客の八割ほどが降り、代わりに乗ってくる客はそう多くありません。 座席は満員でしたが、立っている人はそれまでよりずっと少なくなっています。 考えてみれば、新宿とは逆方面の渋谷から先へ行くのは初めてでした。 見慣れない景色に、ごく…

軌跡~ある教員サークルの興亡~116

「でも、本須賀さんは畑野さんと付き合っているよね?」 「そう、だよ」 訳がわからなくなってきました。 「さっき、米野さんは本須賀さんと付き合っているって言ったよね?」 「うん、言った」 「そして今も本須賀さんと畑野さんは付き合っている、と?」 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~115

会話が色恋方向へ行くので、その流れに乗ることにしました。 「米野さんは最近誰かと付き合ってるの?」 夏休み前に久慈さんと別れたばかりです。 (まだ全然そんなことないよ)的な返答を予期していましたが、意外にも「うーん、一応ね」との答え。 「え………