鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

腕章への憧れ

着飾る事の意義は、おぼろげながら理解しています。 馬子にも衣装と言いますし、本人が野暮ったくても身に着ける物に品があれば全体として小綺麗な感じに仕上がることもあるでしょうから。 それを念頭に置きつつも、私は高級な物、自身を飾る物を身に着けな…

軌跡~ある教員サークルの興亡~105

「ちょっとあっちの様子見て来ます」 片瀬さんが広間の方を指差してから立ち上がりました。 土屋君の様子を見に行くのでしょう。 残された四人は、あからさまに態度で表しませんが、ほっとしています。 あれだけ滔々と喋られると、その後の会話に困ります。 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~104

片瀬さんは、「村上春樹」と聞いて目を輝かせたのも道理で、ただ本を読んでいたのではわからないことをよく知っていました。 相当熱心はファンのよう。 ファンというか、フリークかマニアと言ってもいいほど。 村上春樹が芥川賞を取れなかった理由、彼の原稿…

籐のシート

決まりきった日常を過ごしていると、不意にとりとめもない記憶が脳裏をかすめる。 その事柄、場面、当時の私が感じたこと、それらが後の自分に何らかの影響を及ぼしたからこそ蘇って来たというわけでもなく。 何にも結び付いていない一つのシーンとして。 眠…

軌跡~ある教員サークルの興亡~103

「うん、なにかとりとめもなく話していただけ。河合君は話したいことある?」 少し距離が近すぎると感じられる位置に座る畑野さんに、そう訊かれます。 「自分は、特には……」 「河合君、学部と学科はどこだっけ?」 S大学の先輩に尋ねられ、文学部の国文科と…

軌跡~ある教員サークルの興亡~102

合宿最後の夜です。 桃野さんは張り切って、普段なら後輩に任せて自分はしない飲み会の下準備を率先して行っています。 テーブルの上の紙の資料を片付け、コップを用意し、いつどこで買い込んできたのか焼鳥やら乾き物やらを甲斐甲斐しくそこに並べました。 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~101

とにかく酔い潰れて口が滑って今聞いた話を誰かに話さないようにしよう、と志の低い目標を立てたところで、本条さんがふと顔を正面に向けました。 向かいのホームに畑野さんが立っていて、こちらに手を振っています。 ついさっきまでは無人だったので、今着…

軌跡~ある教員サークルの興亡~100

内容の確認のため、頭を整理して、質問を組み立てます。 「畑野さんの前の彼氏ということですか?」 「そういうことになるよね。いつの間にか、畑野さんは本須賀さんと付き合うようになっていたんだけど……」 「だから、その仁部さんはサークルに来ないんです…

軌跡~ある教員サークルの興亡~99

「なるほど……」 本条さんが桃野さんを信奉するのももっともだと感じます。 自分も、今のように汚れていない無垢な時に、耳障りの良い、現実的なアドバイスを受けたら、同じように尊敬していたかもしれません。 「本条さんは、桃野さんの教えを実践しているん…

軌跡~ある教員サークルの興亡~98

「河合君は桃野さんに苦手意識あるでしょ?だったら無理かも。桃野さんは誤解を受けやすいから、人によって見方は真っ二つに割れると思う。良い人だって言う人と、ちょっとイヤだなって言う人とにね」 (ちょっとどころじゃない) 思いますが、口には出しま…

軌跡~ある教員サークルの興亡~97

「そうなんですか。小さいサークルに見えて、実は結構人の入れ替わりが多いんですね」 「うーん、ここは特殊だよ」 本条さんは断言と言っていいほどの強さで、そう口にしました。 「教員サークルが特殊、ですか?」 「そう。河合君は他のサークルに入ってい…

軌跡~ある教員サークルの興亡~96

「桃野さんと、あと仁部さんていう先輩が一生懸命同好会の勧誘を頑張っていて、手作りのチラシを貰ったの。仁部さんも国文科だったし、それで何となく行ってみようかなって気持ちになったんだ。去年の六月くらいだったけど、どこのサークルにも入っていなく…

軌跡~ある教員サークルの興亡~95

蝉時雨の中、パチンと自然の音とは趣が異なる響きが耳に届きました。 本条さんが煽ぐのをやめ、扇子をポシェットにしまうためにその口を開けた音です。 横目でその動作を何気なく見ていると、「河合君は……」と本条さんの口が開きました。 扇子を仕舞う、この…

軌跡~ある教員サークルの興亡~94

「そうですか」 素っ気なさに対して素っ気なさで返さぬよう、できる限りの温情を込めて返事をしました。 心なしか扇子の動く速度が速くなった気がします。 緊張させるか、最悪苛立たせてしまったのか。 いたたまれない気持ちになり、口を開く勇気を失いまし…

軌跡~ある教員サークルの興亡~93

「女の子なら誰でもいいんですかね?」 その時、桃野さんが目を付けていた大和撫子の染谷さんは、本条さんと随分タイプが違います。 だからそう訊いてみると、畑野さんは「ちょっと本音を言い過ぎ」と、世話好きのおばちゃんが馴れ馴れしくしてくるような調…

軌跡~ある教員サークルの興亡~92

「でも、本当に桃野君には気を付けなよ。女の人のことになると理性失うから。特にお酒が入っている時はね」 忠告を受けて、昨夜の桃野さんのレッドカードに近いセクハラ言動が蘇ります。 畑野さんの口ぶりからすると、前科がありそう。 「そういうことがあっ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~91

「河合君もね、飲み会の時、桃野君に付き合うことないんだよ。自分の飲み方で飲むのが、本人にとっては一番楽しくなれるペースなんだからね」 てっきり無言状態が続くと思っていたので、嬉しい声掛けです。 「強引は強引ですが、ギリギリのところでマイペー…

軌跡~ある教員サークルの興亡~90

自分が沈んだことで、散発的にあった会話も皆無になりました。 ひと気のない駅で三人並んで座り、沈黙のホームにアブラゼミの声が間を埋めるように響きます。 ベンチの一番左に自分が座り、右隣に畑野さん、その隣に本条さんの順です。 女子二人が並んでいる…

軌跡~ある教員サークルの興亡~89

一体どういうわけか。 畑野さんの話の続きを待ちました。 「合宿前に、三日目の、つまり今日の行き先の候補をリストから選ぶように言ったでしょ?」 そうです。だから、国文科の生徒が好みそうな場所を選んだのです。 「でも最初、一茶記念館を希望していた…

軌跡~ある教員サークルの興亡~88

が、その列車を見送ったのは間違いだった。 首都圏に住んでいると、電車が来る間隔をそれほど意識しません。 特に仕事や学校のない休日はそうです。 気にせずともダイヤは詰まっていて、待つほどもなく次の電車が来るのですから。 けれど、そこは違いました…

スキゾイド症者との対話 4/4

スキゾイド症者同士の対話ならば、何を話しても話者の心は傷付かないかと思われます。 何しろ心自体が無いようなものですから。 けれどそこに第三者が入ると、その人は本来受けなくていい傷を負ってしまうこともあり得ます。 私がこれまで以上にひっそり生き…

軌跡~ある教員サークルの興亡~87

合宿三日目、この日の昼は課外研修という堅苦しい名前が付いた活動が割り当てられています。 童話館やナウマンゾウ博物館、小林一茶記念館の三か所に、三班に分かれていくことになっていました。 合宿へ行く前に前もってどこに行くかの希望を尋ねられていた…

スキゾイド症者との対話 3/4

前々回、スキゾイド症者と二回話したことがあると書きました。 ですが、正確には「二人のスキゾイド症者と話したことがある」です。 そのうちのもう一人、Tさんとはやはり大学で会いました。 私が修士課程の二年目、彼は学部の四年生でした。 しかし、年齢は…

軌跡~ある教員サークルの興亡~86

堕落し切った愚者たちが集う空間に、清冽な空気を纏う片瀬さんからの一言。 きまり悪げに各々で顔を見合わせ、目をこすったり、伸びをしたりして気分を変えようとします。 電気が点いている室内より、閉めてある障子の外の方が明るそうです。 部屋の奥で「ピ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~85

「そう、ヤリます」 桃野さんのノリに乗ってしまうMさん。 バブル期並みにイケイケです。 といっても、自分はバブル世代ではないので、あくまでイメージですが。 「もう玄関開けたら二分で合体みたいな?」 S大の、さっきとは違う眼鏡先輩も理性が喪失してい…

軌跡~ある教員サークルの興亡~84

Mさんの発言で一時的な恍惚状態となっている時、そこに現実的な声が割り込みました。 「俺、もう寝るよ。明日も運転があるからな」 案の定、煙草とライターを持って部屋に戻って来た本須賀さんが、一度テーブルに寄ってそう言うと、座敷の奥へ行き、空いてい…

スキゾイド症者との対話 2/4

人生で初めてスキゾイド症者と会話をしたのは、そのカウンセラーのお膳立てによってでした。 人と付き合いたいのに上手く話せない。 他の人が楽しいと思っていることに面白みを見出せない。 ひいては大学生活に価値を見出せない。 そんな男子学生が、相談室…

軌跡~ある教員サークルの興亡~83

テーブルの隅に戻ると、畑野さんと本条さん、それから本須賀さんが欠けているのに気付きました。 残っているのはS大学の三人の男子と、女子のMさん、桃野さんに米野さんといったメンバーです。 畑野さんと本条さんは女子部屋で休むことにしたのでしょうが、…

軌跡~ある教員サークルの興亡~82

「いいじゃないか。気持ちがいいぞ」 突然意識を浮上させた土屋君が声を上げましたが、すぐに体がだらんと軟体動物状態になります。 二人三脚の調子で足の動きを彼と合わせ、何とか座敷まで戻りました。 // 広間のテーブルは部屋の隅に移動し、そこで飲み会…

スキゾイド症者との対話 1/4

スキゾイド症者と過去二回、話をしたことがあります。 私が通った大学にはカウンセラーが常駐していて、学校生活で悩んでいる学生が相談できる仕組みが備わっていました。 人とうまく付き合えず、夜も眠れず、家族の生活音が異様に気になり、顔は吹出物だら…