鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~92

 

「でも、本当に桃野君には気を付けなよ。女の人のことになると理性失うから。特にお酒が入っている時はね」

忠告を受けて、昨夜の桃野さんのレッドカードに近いセクハラ言動が蘇ります。

畑野さんの口ぶりからすると、前科がありそう。

「そういうことがあったんですか?以前にも」

尋ねると、畑野さんは周りを見回して人がいないのを確かめます。

何をそう他人に気を遣う必要があるのか疑問に思いましたが、内容を聞いて腑に落ちました。

 

 

「去年の十二月末、まだ教員サークルが正式には活動していなくて、有志で集まっていた時に忘年会があったの。そこに本条さんも出席していて、他にももう一人一年生の女の子がいたのね。その子は本条さんの友達だったんだけど。そうしたら、こともあろうに桃野君、本条さんとその子とを同時に口説きだしたんだよ」

それで畑野さんが周囲を見たのは、本条さんが帰って来ていないかを確認するためだとわかりました。

「でね、本条さんの方がちょっと可愛いから、桃野君、途中からその友達の方を見向きもしなくなったの。そういったいきさつがあって、その子は離れちゃって、本条さんだけが残ったのよ」

失礼ながら、本条さんをそれほど可愛いと思ったことがないので、彼女の方がちょっと可愛いと言われても状況が想像しにくかったのですが、そう口に出せるわけがありません。

どうして女子が女子に対して言う、「あの子可愛いから」のあの子は男性視線だと可愛くないのか。これは永遠のテーマのような気がします。

 

それは置いておくにしても、二人同時に口説く神経が理解できません。

「酔っていたんだけど、ひどいでしょ?」

ひどい、との意思表示のために深々と肯きました。

「同時に口説くって、その、よくわからないんですけど、タイプが似てたんですか?」

「んー、全然違った気がする。本条さんはおとなしい真面目なタイプでしょ?もう一人の子は明るくて、さばさばした体育会系の子だったかな」

(そして本条さんよりちょっと可愛くない)と心の中で付け足して想像してみます。

さばさばゆえに、自分の友人をあからさまに依怙贔屓する桃野さんの態度が許せず、すぐに離れるといった行動を取ったのでしょう。