鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

軌跡~ある教員サークルの興亡~79

その時、部屋の隅で影が動くのが視界に入りました。 何かと思い、そちらへ目を向けると、土屋君がふらつきながら部屋を出ようとしているのが見えます。 足元が左右によろめく千鳥足。 見るからに危なげです。 酔い潰れた状態から少し回復し、トイレにでも行…

軌跡~ある教員サークルの興亡~78

一方その頃、大きなテーブルの対角線上で、土屋君が桃野さんに絡まれていました。 後で聞くと、片瀬さんとの仲がどこまで進展しているのかをネチネチとべた付いた蛇のように尋ねられていたという。 注がれ続ける焼酎で彼はグロッキーになり、部屋の隅で片瀬…

軌跡~ある教員サークルの興亡~77

宿には朝食しかついていないため、夕食は町の中華料理屋で済ませました。 一応夜に、教員サークルらしい模擬授業の予定が入っていたので、そこでアルコールは入れません。 海に向かって叫ぶといった、今思い出しても赤面する企画を行った交流会でも多少の効…

軌跡~ある教員サークルの興亡~76

「そうかぁ?お前と米野、仲が良いように見えるけどな」 隙あらば、自分と米野さんを二人にしようとするのだから、傍から見れば仲が良く映るかもしれませんが、実情はまったく異なります。 まともに返事をせず、小首をかしげるに止めます。 「じゃあ、女に言…

軌跡~ある教員サークルの興亡~75

「ほら、石を一つずつ持って」 いつの間に集めたのか、桃野さんはちょうど手にすっぽり収まるサイズの小石を配り始めます。 「叫ぶと同時に海に投げるんだ。んじゃ、俺からな」 馬鹿げたことでも率先してするところは、一目置かざるを得ません。 「もう就職…

軌跡~ある教員サークルの興亡~74

二日目の昼は交流会となっていて、S大学生もこちらの大学生も共に二班に分かれて、片方は海へ、もう片方は川へ行くことになりました。 どういった組分けをしたのか、S大学の男子学生二人と桃野さん、それから本須賀さんと自分が海班になります。 見事に男だ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~73

本須賀さんの車が宿の駐車場に入ると、先に到着していた、合同主催相手であるS大学の学生が迎えてくれました。 男性三人、女性一人の参加です。 男性陣は全員眼鏡、女性も服がひらひらしたお嬢様っぽいワンピースを着た真面目な感じです。 宿舎は修学旅行で…

軌跡~ある教員サークルの興亡~72

旅の足は車です。 本須賀さんのセダンと、桃野さんの運転するレンタカーのワゴン車で妙高まで行くことになりました。 ここで問題になるのがメンバーの振り分けです。 ところが何の因果か、いや、前もって裏で計画していたのか、本須賀さんの車には前回のドラ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~71

「付き合っている相手が他の人と仲良くなるのを見て、嫉妬し合って気持ちを高めているのかもね」 片瀬さんが、こちらが何かを言うのを期待した目付きでそう続けます。 「変態だね」 おそらくはこの種の回答がお望みのはず。 話の流れが読めてきて、嬉しい気…

綺麗に負けられない

勝ち組と負け組。 一時期、マスメディアやネットでよく使われた言葉です。 事業の成功者やいわゆるお金持ちが勝ち組、そうでない人を負け組、そのように分類していたと思い出されます。 ところがここ数年、その言葉を以前ほどは目にしなくなりました。 一体…

軌跡~ある教員サークルの興亡~70

「本須賀さんが米野さんに目を付けてる方が、畑野さんに目を付けられてるよりわかりやすいんじゃないか?客観的に見られるからさ。ほら、同じ男として、ハンターになった時の状態はわかるだろ?」 わかりません。 白山さんへの恋心は、憧れが百パーセントで…

軌跡~ある教員サークルの興亡~69

「お台場?!いいなぁ~、私たちも行きたいね!」 母性が感じられた雰囲気から一転、片瀬さんは甘えん坊の少女になったかのような口調で言いました。 確かに人格が変わっている。 「まあ、おいおいな」 土屋君の顔が少し曇りました。 彼も独特な人間関係の築…

軌跡~ある教員サークルの興亡~68

その時に初めて片瀬さんの顔をしっかり見たのですが、結構可愛い。 それまでは特に意識したことが無かったので、分厚いレンズの眼鏡を掛けた女の子、というイメージしかありませんでした。 前髪も長く、表情が見えにくかったせいもあります。 普通サークルの…

軌跡~ある教員サークルの興亡~67

土屋君の見た目は、同性からしてもまあまあ格好良く思えます。 サークルでの発言もしっかりしていて、地頭の良さが窺えます。 わずかにウェーブのかかった髪は人工パーマなのか、天然か見分けがつきません。 よく髪型を変えるお洒落さんで、その時は長くも短…

軌跡~ある教員サークルの興亡~66

「最初から興味はあったんだよ、河合のこと。同じ学科の、他の奴らとは違うなって」 土屋君はタバコに火を点けました。手付きからして、最近喫煙を始めたのではなさそう。 仕草に年季が入っています。 大学デビューで吸い始めたのじゃないでしょう。 未成年…

軌跡~ある教員サークルの興亡~65

サークルが失われたこと。 それがいいか悪いかの判断は、卒業してずいぶん経った今でも難しいところです。 ただ、ずっと持続、継続し得る可能性があったかと言うと、それはないとの判断を下さざるを得ません。 潰れるべくして潰れたというのが実情でしたから…

軌跡~ある教員サークルの興亡~64

「とりあえず友達として付き合ってみて、相性が良いと感じたら恋人にって考えたらどう?」 畑野さんの提案に、自分も米野さんも気乗りしない調子で、「はぁ……」と返事しました。 自分がもっと空気を読める性格であれば、「そうですね」と言って、一時ながら…

神様を信じる

神様を信じる。 今の私の心模様の一幕に、その思いがあります。 といっても宗教的な意味合いでなく、もっと原始的な精神の働きです。 うつ病になり、出来ることが少なくなっていき、日々打ちのめされることの連続。 治療を始めても薬が合わず、加速度的に体…

軌跡~ある教員サークルの興亡~63

「次に付き合うとしたら、どんな人がいい、とか決めてる?」 畑野さんがそう言って、話を元に戻しました。 彼女は、米野さんの恋愛について、やけに親身になっているように思えます。 「久慈さんがあんなでしたから、今度は優しい人がいいです。思いやりがあ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~62

空気を全く読めない、それか、読み過ぎる、また、間違って読むのが得意な自分でも、進んで今醸成されている落ち着いたムードを壊そうとは考えません。 全然足りないながら、そろそろお腹がいっぱいになったとの演技に切り替え、タルトを少しずつ削って口にし…

軌跡~ある教員サークルの興亡~61

駐車場から入り口、廊下にエレベーター、どこを切り取ってみても非日常的な高級空間。 そんなところのレストランだか、カフェだか、パーラーだかが安いはずありません。 下手すれば、ケーキバイキングと言えど万の位まで行くのでは?と恐れつつ、今回は店に…

軌跡~ある教員サークルの興亡~60

いざ会計へ行くと、一人4,300円。 実に学食の日替わりランチの十倍です。 小さい頃は、家族とも外食に行っていたので、その価格が理解できないほど高いのではないと知ってはいます。 が、更にケーキバイキングを控えての、大学一年生の出費として見てみると…

一人称の喪失

前回、小学校五年、六年の時には一人称がなかったと書きました。 ですがこれは正確ではなく、本来は一人称を消した、消していた、と書くべきでした。 なぜなら、小学校四年くらいまで、私には一人称があったからです。 本名の生命の名の方を平仮名にして、そ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~59

「じゃあ、大丈夫だ。モト君が甘いもの苦手だから、ケーキバイキング行きたくても一緒に行ってくれなかったんだ」 それでなのか、と思いました。 畑野さんの付き添い役として、自分や米野さんが選ばれたのでしょう。 もちろん、それがこのドライブの目的のす…

一人称の欠落、そして獲得

自分には一人称がない。 そう気付いたのは、小学校五年生か六年生くらいだったと思います。 自分で自分のことを何と呼べばいいのかわからなかったのです。 「僕」とか「俺」でいいのでは、ともちろん考えました。 でも、「僕」ではひ弱な感じがしますし、「…

軌跡~ある教員サークルの興亡~58

時計を見ると午後五時。 そろそろ夕食のことを考えてもいい時間です。 その自分の考えを読んだわけではないのでしょうが、助手席の畑野さんが同じタイミングで、「晩御飯ね、二人を連れて行きたいところがあるんだ」と、後部座席を振り返りながら言いました…

軌跡~ある教員サークルの興亡~57

お台場はカップルで行けば、それなりに楽しいでしょう。 でも、ダブルデートでもないただの四人組が行って楽しい場所ではなかったように思えます。 今は色々とアミューズメント施設が建ち並んでいて、友達同士でも楽しめるスポットになっています。 けれど、…

軌跡~ある教員サークルの興亡~56

前方にちょっとした行列ができているので、何事かと先を見遣ると、そこには自由の女神像が鎮座しています。 テレビで見た時は、ニューヨークにある本物と比べるとちっちゃいな、と思ったものですが、お台場のそれも実物を見ると割と大きく、存在感があるよう…

軌跡~ある教員サークルの興亡~55

「どんなイメージって、こう、積極的な……。欲しいものは絶対手に入れるような……」 (ガツガツとした)とは敢えて言いません。 「んー、そうなのかぁ。奥手ではないと自覚してるけど、欲しくても諦めるものはあるし、何でもかんでも手に入れようとはしないよ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~54

「河合君も、米野さんに訊きたいことあるんじゃない?」 助手席から、畑野さんが横顔だけ見せて尋ねます。 「河合君は、結構鋭いところ突くからなぁ」 米野さんは、言葉でこそ警戒しますが、顔は笑っています。 (これがSMで言う、マゾヒストなのか?)と、…