軌跡~ある教員サークルの興亡~96
「桃野さんと、あと仁部さんていう先輩が一生懸命同好会の勧誘を頑張っていて、手作りのチラシを貰ったの。仁部さんも国文科だったし、それで何となく行ってみようかなって気持ちになったんだ。去年の六月くらいだったけど、どこのサークルにも入っていなくて、友達もあまりできなくて、暇だったっていうのもあるけど」
友達もあまりできない、この言葉で一気に親近感が高まります。
友達が多い人は多い人同士、いない人はいない人同士惹かれ合うのでしょう。
もっとも後者の場合、性格や思想、信条、果ては容姿などに問題があり、一時的に仲良くなっても長続きしないのですが。
「そこで偶々同じ学科、同じ学年の人と会ってね。それまで存在は知っていたけど、口を利いたことがない子だったんだけど、話してみるとすごい気が合って、そこから変わり始めたのかな」
その子とは、もしや畑野さんが言っていた、忘年会で桃野さんが本条さんと同時に口説いた人なのでは、と疑問が浮かびましたが訊くわけにはいきません。
「それから、その仁部さんていう先輩がすごく優しくて、どんな話もうまく拾ってくれて話すのに自信がついたの」
「その方は退部しちゃったんですか?」
自分だって今の話下手のままでいいと思っていません。
もし変わることができるのなら、変わってみたいとの気持ちも少しはあり、期待を込めて尋ねました。
「ううん、退部ってことはないと思う。桃野さんの友達だし、三年生だからまだ卒業してもいないから……」
そこまですらすらと喋っていた本条さんが、急に口を濁しました。
何かあるのかと疑問に感じると同時に、そういえば桃野さんも最初の頃、サークルに所属している人はもっと多いと言っていた記憶が蘇ります。
そのうちの一人が仁部さんなのでしょう。
「本条さんの友達は、その後どうしちゃったんですか?」
事情は畑野さんから聞かされた通りなのだろうけれど、ここで訊かないのも不自然かと考え、そう質問を発しました。
「うん、……その子は色々あって辞めちゃった」
本条さんが言いにくそうにしているのも、桃野さんの二人同時口説きが本当であることの裏付けに思えます。