鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~102

 

合宿最後の夜です。

桃野さんは張り切って、普段なら後輩に任せて自分はしない飲み会の下準備を率先して行っています。

テーブルの上の紙の資料を片付け、コップを用意し、いつどこで買い込んできたのか焼鳥やら乾き物やらを甲斐甲斐しくそこに並べました。

おそらく彼の頭の中でも猥褻物が並べられていることでしょう。

二日酔いで課外研修に行けず、ずっと寝込んでいた土屋君も夕方には復活し、模擬授業に参加していました。

そして今、桃野さんから「体調戻ったか?二日酔いの一番いい治し方は迎え酒だぞ」と言われ、再び沈みそうな兆しがあります。

 

いざ飲み会が始まると、桃野さんは序盤からフルスロットル。

全開で加速していきます。

「土屋と片瀬、今日課外研修来ないで宿舎で休んでいたけど、実はご休憩してたんじゃないだろうな?」

とのセクハラ発言。片瀬さんは体調の悪い土屋君につきっきりで看病に当たっていたのです。

「していません」

冷ややかな片瀬さんの返事にも怯まず、というか、そこに込められた否定的感情に気付かずに、桃野さんは「でも元気になって良かったよ。下の方も早速活躍したんじゃないか?」と言い募ります。

昼間、本条さんは桃野さんを評して「とても細かいところまで見てくれる」、「繊細でありながら大胆」と言っていた気がしますが、まるで別人の話にしか思えません。

土屋君も苦笑するだけの反応しかないため、それをつまらないと思ったのか、桃野さんはまたMさんにターゲットを絞りました。

「週何回くらいのペースでヤるの?」

まだ飲み会が始まってから五分程度しか経っていません。

よく酔わずにそんな質問ができるなぁ、と思い、Mさんも律義に「多くて週一くらいです」と答えるのを感心して聴きながら、自分はビールをちびちび飲んでいました。

 

 

その日は前日とは様子が異なり、最後の夜だからこそ騒ぎたいグループと、最後の夜だからしんみり過ごしたいグループとに徐々に分かれていきました。

前者は広間で、後者は女子部屋に移動して飲むことになります。

自分は序盤、広間でワイワイお喋りしていたのですが、こちらはアルコールの摂取量も過大で体がきつくなってきたため、途中から女子部屋へ退避しました。

部屋に入ると、S大の男子学生一人と畑野さん、本条さん、片瀬さんがお通夜の通夜振る舞いの席にいるかのようにしめやかな雰囲気で語らっていました。

「いらっしゃい、河合君。疲れるでしょ、あっちは」

畑野さんが彼女の右隣に席を作り、宿舎から借りている湯飲みにペットボトルのジャスミン茶を注いでくれました。

「そうですね。あのノリを二日連続はきついです」

「だよねー。桃野君もよくやるよ」

「ええ……。何か話していましたか?邪魔したのでなければいいんですが」

「何の話でしたっけ?」

本条さんが周りを見回しますが、「んー」とか「なんだっけ」といった反応。

「忘れるくらい些細な話です」

S大学の先輩がにこやかに言いました。

嫌味がなく、とても柔らかな口調。

バイト代が入るたびにソープランドへ行くのを楽しみにしていると語っていた前夜とは別人のようです。