鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~121

 

けれど桃野さんがこちらに向けた矛を収めたわけではなかったのです。

一つの話題が出て、それが途中で有耶無耶になり、また新しく別の話題が持ち上がる。

何度かそのサイクルが繰り返された後に、桃野さんがこちらに目を向けました。

「河合は染谷のことが好きなんだろ?」

好みの異性のタイプを話し合っていた時です。

「なんですか、急に」

(それはあなたでしょう)と言いたいのを我慢して問い返します。

この辺りで既に相当鬱憤が溜まっていたので、言葉遣いに丁寧さが欠けていました。

「だっていつも見ているもんな。サークル活動の時」

「そんなことないです」

否定はしましたが、案外そうかも、との思いもあり勢いは弱いものとなりました。

「なんだって?聞えないぞ」

そんな弱みを見逃さないのが桃野さんです。

本条さんが、桃野さんはとても細かいところまで見てくれる、と言ったのは確かに当たっています。

彼女はそれを美徳と見做していましたが、自分から見れば粗探しが上手い嫌な人、となります。

 

 

サークルには、畑野さん、本条さん、米野さん、片瀬さん、染谷さんといった五人の女性がいました。

その中では染谷さんが留保なく一番綺麗でしたから、意識しないままに彼女の姿を目で追ってしまっていたこともないとは言えません。

本能の問題です。

本条さんはぽっちゃりでしたし、米野さんは痩せ過ぎです。

畑野さんと片瀬さんは眼鏡のイメージが強く、よく見れば綺麗、といった感じでしたし、何より彼氏がいるというのが大きかった。

 

「いえ、だから、そんなことはないと思いますって」

いくらか声を大きめにして言い直しましたが、桃野さんは言葉尻に食い付きます。

「思いますって、自己申告も自信がないってことは、やっぱり見てるんだよ」

そら見たことか、と無理矢理な論法でこちらの主張を否定してきます。

そこまでならいい。

そこで止まってくれていたならば。