鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~130

 

「好きな異性のタイプは『ピュア』ってあったな」

そう書いた気もします。

面と向かって言われると恥ずかしいものです。

「よく覚えてるね」

本人も忘れていたことです。

「まあな」

そこで土屋君は照れくさそうな表情を浮かべました。

その時、その場では気付きませんでしたが、後になって彼がこのような情報を覚えていたのは、自分の英語のクラスの人から名簿を見せられた時に、友達だからと気にしてくれていてわざわざチェックしたからだと思い至りました。

陰でそういった行動をとったのを、多少恥ずかしく思って照れたのでしょう。

自分はひたすら鈍くて、人付き合いの機微がわからず、当時はただ不思議に感じるばかりでした。

 

 

「ピュアって言ってもな、畑野さんはそうじゃないぞ」

「はい?」

一度くわえたストローを唇から離しました。

「香奈から聞いたぞ。合宿の時、お前と畑野さんがイチャイチャしてたって。何をしてたんだよ」

香奈は片瀬さんの名前です。

桃野さんと喧嘩寸前まで行ったあの夜、片瀬さんが自分と畑野さんのことを知っている気がしたのはやはり当たっていました。

小さい集団のため人間関係は濃い、といったことを本条さんが言っていました。

その通りで、だから何事も秘密には出来ないようです。

観念して事実を告げました。

 

「手を握った……だけ?」

話を聴き終えた土屋君は意外そうに言いました。

「イチャイチャしてたってそのことか?」

「そうだと思う。それ以上のことはしていないし」

「なんで?」

「いや、できないよ。他の人もいたし」

「ふーん……」

いまいち納得しかねる様子で土屋君はアイスティーに口を付けました。

「その後は何もないのか?二人で会ってどこかに行ったりとか」

「ないよ、そんなの」

「そうだな。河合はそういうこと出来なさそうだもんな」

一人肯く土屋君ですが、自分としては複雑な気分。

そういうこと、とは何を指すのか。

また、出来なさそう、とは出来るけど倫理的に出来ないのか、ただ単に自分の魅力がないからできないのかがわからずにいたからです。

自身、人としても男としても失敗作だと知っていたので、モヤモヤしたのは土屋君が倫理的に出来ないと判断してくれたらいいな、と思ったからです。

魅力はなくとも清廉でいる、そういう人間になりたいと考えていましたから。