鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

いじめの萌芽とその傷跡

いじめに最初に出会ったのは、よりにもよって中学校に入った初日でした。

といっても、被害者は自分ではなく、先輩。

見知らぬ先輩です。

 

果てない未来に思いを馳せ、夢に夢見た中学の入学式が終わった日の帰り。

希望に膨らんだ胸があっという間にしぼむ、そんな気分にさせる場面を目撃してしまいます。

という中に嘘は多分にあり、そもそも未来に良いことが起きるなんて信じていた時代はなかった気もします。

 

ともあれ、下駄箱で買ってもらったばかりの革靴に足を通し、その日にできた友達三人と一緒に外へ出ました。

信じられないことですが、中学の初日に友達を作るなんて言う大それたことが出来ていたのです。

高校の時とは大違いです。

 

バス停に向かうには校舎の外階段を上る必要があります。

複雑な構造をした学校でしたから。

 

階段の上り口に差し掛かって、地面を見ると、点々と水の跡が付いています。

けれど、その日は晴れのはず。

水の跡を目で辿ると、前を歩く上級生三人組が視界に入りました。

 

三人が横一線に並んでいて、真ん中の一人を両側の二人が脇を支える形で歩いています。

その真ん中の人の鞄から水滴がポトポトと落ちているのです。

鞄の形から、彼らが先輩だとわかります。

うちの学校は学年によって鞄や制服のデザインが変わるという、結構無駄なことをしていましたから。

 

なんで鞄から水が?

こちらの新入生四人組は一斉に顔を見合わせます。

互いにクエスチョンマークが頭の上に浮いています。

 

その気配を感じたのでしょうか。

前を行く上級生の右端の人が後ろを振り向き、「ほら、泣くなよ。下級生に笑われるだろ」と真ん中の人に言いました。

よく見てみると、真ん中の人は確かに下を向いて、鞄を持っていない方の手でしきりに目を拭っているようでした。

 

そして左側の人が真ん中の人の腕を強く引いて自分の方へ寄せました。

「先行けよ」

彼は我々にそう命じました。

体は大きくないけれど、目つきの鋭いちょっと怖そうな人です。

 

言葉に従って、我々は彼らの横をすり抜けて前へ行きました。

その際ちらっと見た真ん中の人の眼鏡のフレームが曲がり、顔を真っ赤にして泣きじゃくっているのが見えました。

嫌なものを見てしまった。

彼ら三人から離れてしばらく行くまで、こちらは誰も何も話しませんでした。

 

話せなかったのです。

どう考えても、どう見てもいじめの現場でしたから。

三人組のうちの両隣の二人が真ん中の人の鞄に水を入れたのでしょう。

 

いじめの兆し、こんなところにあったのかと初日から不吉な気分になったのを覚えています。

いじめはどこにでもあるのかと、絶望しました。

後にその被害者になる前兆を直感が感じ取っていたのか。

 

大人になった今、ある程度世間を見渡せるようになりましたが、いじめを根絶させるのは難しいとは考えてしまいます。

けれど不可能ではない、そう考えてもいます。

絶対にあってはいけない。

いじめにあった傷は癒されえぬものとなることもありますから。

自分のうつ病も発端はきっといじめにありますから。

 

全面的に人のせいにするつもりはありません。

けれど、いじめに特化した教育者育成プログラムを作って、教員に身に付けさせるべきです。

やはりいじめ対策は教員がカギを握っていると思いますから。