モテない人間の肖像:ケータイ編
モテたい。
恐らく誰もが持つ感情ではないでしょうか。
先天的に見目麗しく、人好きがして、輝くばかりの魅力をもって生まれた人でもやはり好きな人に好かれたいと思うかと。
病んでいる自分もやはりモテたいと思った時期はあります。
さらに病み、鬱全開の今はモテたいなどという出過ぎた願望はとても持てません。
そもそも好かれたとしても、今の自分にはそれに応える術を持っていませんし。
大学生の時、ふとケータイのアドレス帳を眺めた時、愕然としました。
異性の名前が一つもない。
いや、正確に言うとあるにはあるのですが、それは母や姉。異性と言えば言えますが、普通言いません。
これぞモテない人のケータイです。
そこでどうしたか?
異性と御近付きになればいい。
という発想にはなれませんでした。
自分の立場を弁えていましたし。
何より伝手がありません。
そして、長期的な思考が苦手な自分はもっと手っ取り早い方法を望んでいました。
異性の電話番号が欲しい。
「モテたい」から話がずれてきている気もしましたが、当時は気付きませんでした。
財布の中を探ると、みずほ銀行のキャッシュカードが目に入りました。
みずほ銀行……、みずほ……、女性らしい名前……。
そう連想が働きます。
気付けばケータイを片手に指が動いていました。
「小林みずほ」、電話番号「×××-○○○○-△△△△」、と。
同じように、アルバイト先の本屋の場所が「桜」の付く地名だったので、「本庄さくら」と改変し、他にも次々に異性の(名前に変換した)データを入力していきました。
するとどうでしょう。
少なくともケータイの住所録からは、モテない感が薄れたように見えます。
一方、入力した自分はあまりの虚しさに呆然としていましたが。
誰に見られるケータイでもありません。
ですが、たった一人、それを見てくれた人がいます。
「この本庄さくらって子、名前が可愛いな。どんな子?」
彼は尋ねました。
「んー、アルバイト先の」
得意げに答える自分。ですが、心の裏側はやはり虚しさでいっぱいです。
というわけで、モテない人間の肖像の一側面をお伝えした今回です。