鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~10

 

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飲みなれないビールをちびちび飲みつつ、誰かが頼んだたこわさの美味しさに箸が止められずにいる中で周りを見たり、保科君のとりとめもない話に肯いたりしていました。

            

と、突然もう一人、見落としていたメンバーに気付きました。酔いで注意力が散漫になっていたのでしょう。

国文科一年のもう一人の女子・染谷さんです。

 

彼女の第一印象と言えば、和。

大和撫子の要素を結晶化させたような容姿です。

艶のある深い黒色の長い髪、ひやりとするほど鋭い角度で目尻が切れ込んでいる瞳、薄く小さい朱の唇、きめの細かそうな練絹色の肌、

生糸を絹糸にする際に、手で練る必要があります。生糸そのままではセシリンというにかわ状の物質により硬くなってしまうので、それを除去するためにです。

その過程を経て出来るのが練糸、それで作られる絹地が練絹です。

ほんの少しだけ黄色みがかった白色、それが練絹色です。

もちろん、こんな絹の知識など持ってはいませんでした。染谷さんの肌の色を表現するために文献を探り、ようやく見付けたものです。

何が言いたいかというと、つまり美白だった、それだけです。

 

 

染谷さんの友達である米野さんは、理数科二年・久慈さんの一挙手一投足に注目するのに夢中で、隣同士なのにあまり会話は弾んでいないよう。

時々個別の話じゃなく、その場全員での歓談になる時、染谷さんは発言者の意見をよく聴き、必要であれば筋の通った自身の考えを述べます。

ただおしとやかにちんまりと座って、空気や雰囲気に流される世間知らずのお嬢様というタイプではありません。

米野さんにほったらかしにされて、一人でお酒かウーロン茶を飲んでいる時もつまらなそうな顔をしたり、枝毛を数えたりして暇ですアピールをしません。

穏やかに口元に笑みを湛え、真っ黒な瞳で控え目に周囲に視線を巡らせています。自分のように遠慮なくじっとりと誰か一人を見続けることはしていません。

何とも感じのいい人です。可愛いというより、正統派の美人。

 

といって、その段階では染谷さんとお近付きになりたいとは微塵も考えていませんでした。

分を弁えていましたし、何より予備校時代の片思いを引きずっていたからです。