軌跡~ある教員サークルの興亡~33
仕方なく、追いつくよりも見失わないことを最優先にします。
時折、背の高い人が間に入ると、つま先立ちで背を高くして視界を確保しました。
中学一年の時に散々チビとしていたぶられたのが嫌で、靴の中で背伸びをして身長を稼いだ経験が生かされました。
まさか後に、尾行でその経験が役立つとは思いもしませんでしたが。
そのように、自分の持てる能力を余すところなく発揮し、歩行者天国となっている商店街まで到達しました。
人の流れは、盛り場や種々のショップ、鉄道の駅、バスターミナルへと分散します。
追いつくならここだと、一気に足の回転を上げました。
十五メートル、十メートルと近付き、白山さんと自分との間に通行人が二人いるだけの距離になった時、ようやく我に返りました。
このまま追いついて後ろから声を掛けるのは、不自然過ぎるのではないか。
四年前に面倒を見た生徒の一人に付きまとわれ、待ち伏せされ、尾行された挙句に、プライベートな無防備の瞬間に声を掛けられる。
白山さんの立場に自分を置き換えて想像すると、気持ち悪い以外のなにものでもありません。
そう考えると、せかせか動かしていた足の速度が自然と落ちました。
同時に、せき止められていた水が流れ出すかのように、自分の中から白山さんへの思慕の念が町の喧騒に溶けだしていくのを感じました。
不思議です。
四年にわたる長期間、ずっと想い続けていた人にやっと追いつける地点まで来たところで、その恋心が嵐の中の花びらのようにあっけなく散ってしまうとは。
当時の気持ちをうまく言い表すことができません。
無理に言葉にすると、「一つの時代が終わった」、そんな風になります。
惰性で止まっていなかった足は、なおも白山さんの後ろをついていっていますが、距離は随分離れました。
そして、彼女がブックオフに入り、あらかじめ読もうと決めていたのか、迷うことなく少女漫画のコーナーへ向かうのを見たところでついに尾行は途切れました。
店の近くまで行き、窓越しに白山さんの横顔を見ると、自分は日が長くなって必要以上に明るく感じられる夕方の町を疲れるまで歩き続けました。