鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~43

 

桃野さんが染谷さんを狙っている。

これは面白いことになったと思う自分がいます。

 

いつもピンクやらオレンジ色やら緑色やらの派手なTシャツにブルージーンズを履き、亀の子たわしのようなつんつん頭に銀縁眼鏡といったスタイルをしている桃野さんです。

顔はお世辞にも格好いいとは言えません。

むしろその対極に位置しているような特異な面容です。

どろんとした目が特徴的で、以前書いたように顔じゅうが吹出物で覆われ、一言で言えばイボ蛙のよう。

他人の容貌をとやかく言える立場ではありませんが、少なくとも清楚可憐な染谷さんと釣り合うことは決してない。

それ以前に染谷さんの相手として秤に載せるのすらもおこがましい容姿です。

そんな彼が片思いをしているのが面白いと思ってしまったのです。

根暗な人間の発想です。

だってうまくいくはずがないとわかり切っているから。

 

 

正直に言います。

自分は、桃野さんのリーダーシップや宴席の盛り上げ方に一目置いていたものの、人としては好きではありませんでした。

意見の押し付けや、反論を許さない横暴さ、こちらの言葉尻を捉まえて笑いものにする所作などなど、プラスよりマイナスの要素の方が圧倒的に多かったのですから。

 

染谷さんが桃野さんをどう思っているのかは知りません。

けれど、それまで見てきたところでは、彼女の方から桃野さんに話しかけた場面はありませんでした。

桃野さんが自分をだしにして笑いを取る時も、染谷さんは、笑いたくないけど笑わないとよりひどいことになりそうだから笑っておくね、といった遠慮がほの見えていました。

対象が自分だからであれば、特別気に掛けてくれているようで嬉しかったかもしれませんが、そうではありません。

染谷さんは、人を笑いものにすることを極力避けていました。良識のある人だったのです。

 

付き合っている人はいないように見えましたが、彼氏募集中といった雰囲気も纏っていません。

彼女の態度からわかるのは、自分を含めサークルの男ども全員が恋愛対象外であった、とのことです。

恋をしたい女子に見られるであろう「隙」が、全く見当たらないのです。

 

だから、面白がりつつも桃野さんには幾ばくかの同情はしました。

相手は違えど、絶望的な片思いをしている者同士でしたから。