鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~44

 

一方、恋している女子の米野さんは、二年の久慈さんに対して猛烈にアタックし、二人で出掛けるようにもなったと言います。

それを教えてくれたのはやはり畑野さんです。

「堅物の久慈君と、乙女真っ盛りの米野さん、二人でどんな会話してるんだろうね?」

桃野さんが染谷さんに目を付けている、と教えられたのと同じ時に訊かれました。

「堅物、ですか」

そう言うと、畑野さんの隣で缶のブラックコーヒーを飲んでいる本須賀さんが「ガッチガチの堅物だよ、久慈は」と口を挟みます。

「一年の時からあの調子で、誰に対しても挑戦的でさ。女っ気も皆無だったし、これからもずっとそうだと思ってたんだけど、物好きな子もいるもんだ」

 

その意見ももっともです。

確かに、誰に対しても、何に対しても物怖じしない久慈さんには独特の魅力があります。

ですが、自分が女子ならば彼を好きになったりはしないでしょう。

というのも、久慈さんは情緒的な温かみに欠ける人だからです。

つんつんと刺々しいばかりで、どれだけ好意を受けても態度を軟化させるようには思えません。

ツンデレのデレが無い、ただのツンツン人間です。

付き合ってみても、楽しい時間が過ごせるとは思えません。

人としての魅力が皆無の自分が、人を評するという矛盾はひとまず取り置きます。

 

 

とにかく、久慈さんが誰かと付き合うのであれば、その棘をこれまでの人生経験でかわすことのできるかなり年上の女性か、棘を出すのが憚られるほどの年下の女の子かだと考えられます。

そう言ってみると、「河合君、見ていなさそうで結構鋭い批評をするね」と畑野さんに感心されました。

「うん、久慈が付き合えるとしたら、相当年上の人だろうな、とは畑野ほのかとも話してたんだ。そうか、下に年が離れているのもありだな。ロリコンにならない程度でってことだろ?」

本須賀さんもこちらの分析に賛意を示します。彼もまた桃野さんと同じく畑野さんをフルネームで呼びます。もちろん二人だけの時は違うのでしょうが。

「いや、この際ロリコンでもいいんじゃないですか?」

自分は思っていることをそのまま口にしただけでしたが、本須賀さんと畑野さんは冗談と取り、ひとしきり笑って、「河合も結構面白いこと言うな」、「ほんともっと話せば友達増えるよ」と言います。

 

こういう経験が今までにも数多くあります。

自分が真面目に言ったことを冗談かブラックユーモアと解される。

世の中の見え方が普通とは違っているのかとも思いましたが、最近ではそこまで大袈裟なものではないとわかって来ました。

要するに、人付き合いが上手くできないので、言っていいことと悪いことの線引きができていないだけなのです。

そして、言ってはいけないことを意識せずに口に出してしまうので、更に人付き合いの機会が少なくなる。

その悪循環に陥っているのです。

 

そう気付いてからはなるべく人前では喋らなくなりました。

そうすると、つまらない人間扱いされ、やがては人が離れていきます。

よって、人付き合いについては絶望的な未来しかありません。

自分の人間としての根本を変えなくては、この運命は変わらないでしょう。

それが不可能なので、今ではもう諦めつつあります。