鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~38

 

「河合は罰ゲームだな」

母校の授業を幼稚と言った自分に下された刑は、300ミリリットルのにごり酒を空けること。

その日のサークル活動後の飲み会で、桃野さんにそう宣告されました。

気まずさをひきずるより、こうして笑いに紛らせてくれた方がいいかと思い、甘んじて受け入れました。

染谷さんも、音を立てずに手を叩いて笑顔を見せています。

内心怒っているのかもしれませんが、表面上だけでもにこやかでいてくれるのは救いでした。

 

 

「模擬授業の感想は、批判のための批判になっちゃだめだ。建設的なものじゃないと、ただの悪口になるからな」

と言いながら、桃野さんがグラスに日本酒を注ぎます。

酒の味にうるさいだけあって、彼の選んだにごり酒からはふわっといい香りが立ちます。

でも、グラスを持って顔へ近付けるとむせそうになるほどのアルコール感。

瓶のラベルを見ると、度数が20度と記されています。

普通の清酒が大体15度ですから、かなり高めです。

「はい、じゃあ一気、行ってみようか。河合君のちょっといいとこ見てみたい」

桃野さんが、「ほーら、いっき!いっき!」とコールを始め、サークルのメンバーも手拍子をします。

「おいしそうだから、ちびちび飲みます」と言えない雰囲気。

こういうので急性アルコール中毒になって亡くなる人も出るのでは?、と考えながらも、それまで十回くらいあった飲み会で、自分がそうお酒に弱くないのは判明していたのでひと息でグラスを空けます。

手拍子が拍手になったところで、桃野さんが「じゃあ、二杯目な」と瓶を手にします。

彼はまだそんなに飲んでいないはずなのに、異様に目が鋭くなっている気がします。

「いいよ、そこからはマイペースで飲んでもらえれば」

強いお酒の一気はまずいとの判断か、本須賀さんが助けを出します。女子への優しさアピールの気もしましたが、さすがに穿った見方でしょうか。

「いーや、一気だ。ほらほらほら」

目の据わった桃野さんに、ほぼ強要される形で二杯目を空けると、すかさず三杯目が注がれます。

喉と胃が焼けるように熱く感じ、頭もクラクラしてきました。

続けて飲むのはきついと、「ちょっと休ませてください。少しずつ飲みます」とお願いしました。

「それじゃあ罰ゲームにならないだろ」と桃野さんが言い張ります。

罰ゲームというより、罰です。

楽しさがありません。おそらく自分だけでなく、桃野さん以外のメンバーにとっても。

やっぱり怒っているのか。そう考えました。