鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~42

 

サークルの長である桃野さんが飲み会大好き人間であるため、何かと機会を見付けては居酒屋に誘われていました。

「飲みにケーションだよ」と、当たり前に口にする人です。

昭和の遺物そのままに。

 

誘いは強引でしたが、行けばほどほどには楽しかったので断ったことはありません。

同級生の中に相手をしてくれる人がいなかったとの哀しい理由も裏には存在しましたが。

まだ一年のその頃は、一人でいいや、と振り切った考え方が出来ていませんでした。

 

ただ、染谷さんと手を繋いだ頃から、桃野さんのこちらへの接し方が変質したように感じていました。

視線の中にも剣呑さが見え隠れします。

自分は人に好かれる性格ではないので、嫌われるのも時間の問題だと覚悟していましたから、桃野さんが時々きつい態度を見せるのもそのせいかと考えていました。

 

 

けれど事実は違っていました。

桃野さんがそういった態度をとるのは、彼が染谷さんを狙っていたためだというのです。

 

「河合君はよく話に出すチューターさんが好きなんでしょ?そうしたら、染谷さんとあまり仲良いところは見せない方がいいよ、桃野君の前ではね」

との助言をくれたのは畑野さんです。

梅雨が明けた七月上旬のサークル活動の日、集合場所の学生ホールに彼女と本須賀さん、自分だけしか集まっていない時に言われました。

冷房がキンキンに利いていて、外を歩いてきた自分にはちょうどいい涼しさでしたが、二時間目が休講で、その後ずっとここで話をしていた畑野さんは寒そうに薄手のパーカーの袖を手首のところまで引いています。

その頃には自分が予備校のチューターに惚れ込んでいるのは、サークルメンバーみんなが知るところとなっていました。

お酒の席では、片思いネタもいいつまみになるので、よくこちらの恋模様を訊かれることがあり、隠すこともないので洗いざらい喋っていたためです。

それでも、さすがに湯島天神に行ったことまでは黙っていましたが。

 

「桃野君が染谷さんに目を付けているからね。河合君にそのつもりが無くても、仲良くお喋りしているのを見るのは不快みたい」

まさか自分が恋のさや当てに巻き込まれるとは思っていなかったので意外でしたが、それで桃野さんの言動が厳しい理由が判明し、すっきりしました。