鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~40

(女の子の手だ)。

一気に酔いが醒めました。

が、自らの腹黒さと下心が発現し、ガードレールから歩道の中央に戻った際に偶々を装って染谷さんの手の甲に触れてみました。

すると彼女は、「しっかり」と言って、こちらの腕を支えていた手を離し、その手で右手を握り返してくれたのです。

中学高校と男子校だった自分にとって、最後に女の子の手を触ったのは小学校の修学旅行以来です。

 

喜んでいいようなものの、恐らくは酔いが醒め過ぎていました。

染谷さんがこちらの手を取った行動の真意が、文字通り手に取るように理解できてしまったからです。

彼女は100%の親切心でのみ、こちらの手を握ってくれたのです。

異性だからといった躊躇いが無いのも恐らくそのためです。

 

 

試しにちょうど自分の左を歩いていた米野さんの手を左手で取ろうとすると、彼女は一度手を引き、それから仕方ないという風に右手を差し出してくれました。

それが普通です。

いや、手を出してくれないのが普通かも。

お試しに米野さんを利用したのは、反省しています。

 

ともあれ染谷さんは米野さんより、手助けに慣れがありました。

右手に染谷さん、左手に米野さんと、両手に華状態で五、六歩行ったところで、後ろから何か重量のあるものを頭にぶつけられました。

パッと両手を離し、前につんのめって転倒すると、すぐ後ろに自分のリュックサックが落ちていました。

「お前、荷物忘れるなよ」

桃野さんが、自分が店に置き忘れていたリュックを投げて寄越したのです。

「いたぁ……」

と、恐らく中に入っているフランス語辞典の角が当たった頭をさする姿が面白いのか、染谷さんも米野さんも声を上げて笑っていました。

リュックを投げつける勢いが必要以上に強かったよう感じましたが、この時も染谷さんが笑ってくれるならそれでいいと気持ちに方を付けました。