鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~107

 

「桃野さんて、酔うといつもああなるの?」

Mさんが尋ねました。

「大体そうだよね?」

畑野さんが言ったので、本条さんが肯き、自分も続きます。

その時、束の間横へ顔を向け、畑野さんと視線が絡みました。

何か意味ありげで、艶っぽさを感じた風に思います。

「河合君はよく狙われてるよね」

「え?自分が?」

本条さんが確信を込めた声で言うのに疑問を呈しました。

「うん。いつも何か理由を付けて河合君を酔い潰そうとしてる」

薄々そんな気はしていましたが、周りから見てもそうだというならば、それはもう決定的な事実でしょう。

「……もしかして桃野君て両刀使い?」

多少アルコールが入っているのか、S大学の先輩が悪ノリします。

「河合君を酔い潰してチョメチョメしようとしたり?」

「あはは、それはないよね」

畑野さんがそう笑って、こちらが膝の上に置いていた手をタンと叩きます。

「そう、です、ね」

返事の区切りがおかしくなったのは、畑野さんの手が自分の手の上に乗せられたままになっているからです。

 

 

爪先が当たるのは気のせい、そうは思えます。

が、手に手を重ねたままでいるのは、どう解釈しても気のせいにはできません。

「今回合宿に来ていないけど、一年に綺麗な子がいて、その子をめぐって河合君と桃野君が争ってるんだよね?」

「ええ……え?違う、違います」

畑野さんの言葉も上の空でしか聞けません。

自分の置かれた状況が特殊過ぎて、頭の回転がまるで追いついてこないのです。

「桃野さんが勝手に競ってるだけですよね?」

(本条さんはちゃんと見てくれていて嬉しい)。

そんな単調な感想しか思い付きません。

やっとやっとで首を縦に振ります。