鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~106

 

気になるのは、こちらの太ももに畑野さんの爪先が当たっていることです。

片瀬さんが話し始める前はちょこちょこ当たったり離れたりしていたのですが、今では完全にくっついています。

畑野さんは気付いていないのか?

確かめたくても自分が意識し過ぎなだけで、相手が何とも思っていなかったら、「なに?」と言われてきまりが悪い思いをしてしまいます。

だから、隣にいても顔を見られずにいました。

 

片瀬さんは帰って来ないようなので、彼女がいた席に移ろうかと考えました。

正方形のテーブルの一辺に二人で並んで座っているのは自分と畑野さんだけで、本条さんとS大学の先輩は一人でいるのですから不自然と言えば不自然です。

誰かがトイレに行ったりして席を外すタイミングで、自分も移動しようかと考えていると、意外にもMさんが部屋へ入って来ました。

そして片瀬さんのいた場所が空いていてちょうどいいと、ストンと腰を下ろしてしまいます。

「はぁ、酔った酔った」

女子部屋に物を取りに来たわけでもなさそうです。

Mさんは顔をパタパタと手で煽いで火照った様子。

かなり飲まされたみたいです。

本条さんが湯飲みに注いだウーロン茶を、Mさんは「ありがとうございます」と言って、一気に飲み干しました。

 

 

「ジュースでも飲む?お酒はもういいでしょ」

S大学の先輩が尋ね、Mさんは肯きます。

腰を据えてここで酔いを醒ますつもりです。

自分が移動するタイミングは潰えました。

「よく桃野さんから逃れられたね」

畑野さんが言うと、Mさんは恥ずかし気に頬を染め、「もう何も話せないほど話しましたから」と、視線を落としてリンゴジュースのプルトップを開けました。

「そっか……」

畑野さんもコメントに困る発言です。

「で、今どんな雰囲気?あっちは」

気を取り直してそう訊きました。

「今は、あの眼鏡を掛けた細い子、米野さんでしたっけ?彼女が餌食になっています」

「餌食って……」

畑野さんがそう言い、残りの皆は同情の表情を浮かべました。