軌跡~ある教員サークルの興亡~109
畑野さんの手に力が入りました。
まるで、私の味方でいて、と言っているよう。
本当にそう思っているのかもしれません。
手と手を繋ぐことで思いが伝わる。
だから恋人同士は、いつも手で繋がっていようとするのか。
「そうですね。私も、あと私の友達も桃野さんから声を掛けられたことがありますから」
本条さんは覚悟したように、くっきりと張りのある声で言いました。
畑野さんと彼女との間で、視線がぶつかり火花が散った気がしますが、見なかったことにします。
「桃野君は、手当たり次第なのかな?」
S大学の先輩男子が呆れた口調で言います。
それはそうでしょう。
節操がありませんから。
「なのかな?」
畑野さんが本条さんに尋ねます。
「どうでしょうか?年下なのでコメントは差し控えます」
裏の事情を知っている自分としては、二人の会話は抜身の刃の先をカツカツと当てて相手の出方を試す、緊迫感に満ちたものとして捉えられます。
それでも本条さんが言葉の上では一歩引いたので、わずかに緊張が緩みました。
畑野さんの手の力も弱まります。
が、それでもしっかり繋がれている状態は継続しています。
サークル活動の飲み会の後、染谷さんと手を繋いだことがありましたが、その時のさらりとした感触ではありません。
染谷さんは、こちらのことを異性としてはまったく意識していなかったため、彼女の手からは何も伝わって来ず、あっさりとしたものでした。
けれど、今自分の手の中にある畑野さんのそれは、肉感的で、湿った感覚があり、艶めかしさが腕から脳に伝ってきます。
一言で言えば、「女」を感じさせる手です。