鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~120

 

行く先の違う二人が同じ場にいて、それらの道が平行線ならばいいものの、そうでないならば、ところどころで交差する部分が出て来ます。

そこで衝突が起こります。

桃野さんも、自分のいやに冷めた様子から、本須賀さんたちの三角関係を知っていると気付いた模様。

不可解な人間関係を目の当たりにして、顔色が変わっていたせいかもしれません。

それでいて、我関せずと超然とした態度を取っているのが気に食わないのか、いきなり絡んできました。

 

「お前、米野と仲良くやってなかったか?」

「特には、別に……」

桃野さんが半ば喧嘩腰で言ってくるので、こちらも反抗してみたくなり、ぶっきらぼうに答えました。

まだまだ青い時代。

自意識過剰ゆえの自尊心に満ちていた時です。

うつ病になった今、そんな自惚れなど粉砕されています。

自分の何をそう誇っていたのか、思い出せません。

「そうか……」

こちらの反発を読み取った桃野さんの目が鈍く光ります。

「お前、他によろしくやってる女がいるもんな」

サークルで占領していた座敷での会話がその一言でしゅんと静まりました。

雰囲気が固くなった気がします。

その凍り付いた空気の中、本条さんと片瀬さんがこちらに視線を向けたのを感じました。

二人と、それから桃野さんは知っているっぽい。

そう気付きました。

合宿で、畑野さんと手を繋いでいたことを。

ということは、本須賀さんにも知られている可能性だってあります。

バレていないと思い、調子に乗って長時間そうしてしまいました。

粗漏だったと指摘されれば否定できません。

当の本人である畑野さんがどんな顔をしているのか。

今、彼女と目を合わせるのは危険な気がして、テーブルの上のコップから視点を変えられませんでした。

 

 

「河合ぃ、そうなのかぁ?」

土屋君が間延びした声で訊きます。

続いて片瀬さんの「キャー」というわざとらしい小さな叫び。

おしぼり一面に、百個近く付いた等間隔の赤い斑点。

土屋君がニキビから出た血液を丹念になすり付けた作品です。

それに対して片瀬さんが声を上げたのです。

「お前……、馬鹿……」

気張っていた桃野さんも呆れ顔になります。

お陰で、緊張していたテーブルにも音が戻って来ます。

土屋君は計算してそうしたのではなく、実はとっくにアルコールが回っていて、正気をほぼ欠いた状態になっていたよう。

だからか、アドリブならではの絶妙なタイミングでした。

とめどないアルコールがヨーグルトの膜を貫通したか、洗い流してしまったのでしょう。

そこに片瀬さんが計算された適時の的確な悲鳴です。

助けてくれようとしてくれたのです。

そして、本当に助かりました。

一度緩んだ空気の中、桃野さんもこれ以上の追及は空気を壊すと考えたらしく、同じことを再び尋ねはしませんでした。