軌跡~ある教員サークルの興亡~87
合宿三日目、この日の昼は課外研修という堅苦しい名前が付いた活動が割り当てられています。
童話館やナウマンゾウ博物館、小林一茶記念館の三か所に、三班に分かれていくことになっていました。
合宿へ行く前に前もってどこに行くかの希望を尋ねられていたので、自分は国文学科の人が選びそうな一茶記念館を選択しました。
そうすれば一人だけはぐれて、それは可哀想だから他の場所に入るよう促されることはないだろうと予想したのです。
そんな哀しい体験は高校までで十分、そう思っていました。
が、現実は想像を超えてもっと哀しいものだったという。
小林一茶の存在は知っていても、どんな作品を残したのか詳しく知らず、興味もありませんでした。
与謝蕪村と小林一茶の句を並べられて、どっちがどっちかと訊かれてもきっと答えられません。
国文学科に籍がありますが、自分が大学一年の時に研究したいと思っていたのは、『風立ちぬ』の堀辰雄や、『城の崎にて』の志賀直哉といった近代小説です。
俳句や短歌には、それほど思い入れがありません。
受験の時に文学史を一通り勉強したので、その時には一茶や蕪村の代表作くらいは覚えていたはずでしたが、大学に入ってしまってからはきれいさっぱり忘れ果てていました。
そう考えていたのが自分だけなら、さして問題はありません。
けれど、後々一茶記念館へ一緒に行った畑野さんと本条さんも、専門としている分野は別にあり、小林一茶についての知識はそれほど持っておらず、また持ちたいとも思っていなかったのです。
記念館を一通り回り、最寄りの駅へ歩いて向かいました。
畑野さん、本条さんと三人きりになるのは初めてで、特に本条さんとはサークル活動でも、飲みの席でも、それほど多く言葉を交わしたことがないため、どのような性格かわからず、会話は途切れがちでした。
のどかで人通りもなく、強い日差しが穏やかな空気を熱し、アスファルトに色濃く三人の影を落とす道を歩き続けます。
駅が見えてきたのと同じ時、電車もまたやって来たのが見えました。
走ったところで間に合わなそうですし、上りか下りかの方面も確かめないと、と言葉を交わし、その列車を見送りました。