軌跡~ある教員サークルの興亡~78
一方その頃、大きなテーブルの対角線上で、土屋君が桃野さんに絡まれていました。
後で聞くと、片瀬さんとの仲がどこまで進展しているのかをネチネチとべた付いた蛇のように尋ねられていたという。
注がれ続ける焼酎で彼はグロッキーになり、部屋の隅で片瀬さんに介抱されるまでに酔いつぶれてしまいます。
本須賀さんや畑野さんが、二年のぽっちゃり本条さんの恋愛観について尋ねていると、土屋君の意識を無くさしめた桃野さんがこちらにやって来ました。
しばらくは本条さんの生真面目な回答を聴いていましたが、それでは物足りなくなったのでしょう。
会話が一段落すると、彼は話の矛先をS大唯一の女性、Mさんに向けます。
「Mさんは、このうちの誰かと付き合ってるの?」
S大学の男性陣三人の顔は一瞬強張ります。
同じサークルに紅一点の女性。
気になっていたのでしょう。
もっと言えば、Mさんに好意を寄せていた人もいるのかもしれません。
「いえいえ……」
突然話を振られたMさんは、酔いで上気した頬に朱を上塗りさせます。
「じゃあ、他に付き合っている人がいるとか?」
桃野さんの粘りが出て来ました。
こうなるとこの人はしつこい。
曖昧な答えでは逃げ切れません。
交流会でなまじ打ち解けてしまったのが、裏目に出た形です。
遠慮という概念が取り払われてしまったのですから。
美人ではないものの、おっとりとした物腰や言葉遣いに上品さを感じる女性です。
大人数のアイドル集団で、ランキングの真ん中くらいにいてもいいくらいの容姿です。
どちらかと言えば男好きのする感じに見えました。
「えーっと、そんなことより、皆さんはどうなんですか?」
Mさんは話をはぐらかそうとしますが、「まずは自分のことから言いましょう。マナーです」と桃野さんは焦点をずらしません。
本当にしつこい。