鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~118

 

気温も落ち着き、風の中にも爽やかさが感じられるようになってきた十月上旬。

サークル活動後、いつものように飲み会が開かれました。

「今日は飲むからな。徹底的に付き合えよ」

桃野さんが自分と土屋君の肩に片手ずつ置いて、覚悟を促します。

土屋君とは居酒屋に行く直前でコンビニへ行き、胃に膜を張るという飲むヨーグルトを買って事前の防御策を取ってあります。

乳製品がアルコールの体内への吸収を遅らせるという説には疑義があるようですが、鰯の頭も信心から、です。プラシーボ効果に期待します。

 

 

模擬授業が始まる前に、学祭の出し物を何にするか決めることになったのですが、まともに考えてきた人が一人もいませんでした。

米野さんと組になって決めなければいけなかった自分も、例の「関係を持った」事件で何となく二人でいるのに抵抗が出来てしまい、話し合いの機会がないままに来てしまいました。

特に期限を決めていなかったためもありますが、実のところ皆、学祭で何かをする意欲がないのが真の原因であったと思います。

積極的に学祭に参加したい人は、教員サークルと掛け持ちで入っている別の活動に力を入れるでしょう。

祭りと教職、この組み合わせがそもそも水と油のように根本的なところで溶け合わないのです。

極論を言えば、片やおふざけ、片や生真面目。

混ざりあうはずがありません。

それでも桃野さんは納得できないらしく、模擬授業中も不愉快な様子を態度に滲ませていました。

 

「桃野さん、荒れるぞ。予防しとこうぜ」

土屋君がサークル活動後にこちらの側に来て、耳打ちしたのは正解でした。

一杯目のビールを空けると、桃野さんは早々に日本酒へ切り替えます。

そしてそれを、自分や土屋君、久慈さんや築地さんに強要するいつもの展開。

二年の久慈さんと築地さんは、二人とも独自の世界を持っていて、それを決して崩そうとはしません。

お酒を飲むペースも同じで、桃野さんから勧められてもきっぱりと断り、静かに飲み進めています。

となればしわ寄せは一年の自分や土屋君に来ます。

オタクの保科君はサークル活動そのものに対してもマイペースで、その頃には来たり来なかったりになっており、飲み会にはどんなに誘っても来なくなっていました。

 

皆のやる気なさから、学祭にはほぼ参加しないと決まったことが余程気に障ったのか、桃野さんの飲むスピードもこちらへお酒を注ぐスピードも、いつもより大分速くなっています。

飲むヨーグルトの膜がなければ(という思い込みにすぎないとしても)、早々に沈んでしまいそうな勢いでした。