軌跡~ある教員サークルの興亡~48
「私がバラしたこと秘密にしてくださいね。次の日に久慈さんと会った時も、書類ケースの中を見たなんて口にはしませんでしたから」
米野さんは特に自分の方を見て強調しました。
「久慈に訊かれなかったのか?中を見なかったかって」
桃野さんの問いに、「訊けなかったんだと思います」と米野さん。
「だってもし私が『はい、見ました』って言ったら、自分がキレるのがわかっていたんじゃないですか?それくらいおぞましいラブストーリーでしたよ」
口を滑らかにさせるためのカルピスサワーが効き過ぎているのか、そんなことまで言い出す始末。
「おぞましいって……。それを聞くまでは興味本位で見てみたいと思ってたけど、ヤバいな。河合じゃないけど、読んだら久慈への態度が変わりそうだ。『さん』付けになるかもな。『久慈さん、ご機嫌いかがですか?』って」
本須賀さんが言うと、桃野さんが「そっちかよ」とべらんめえ口調で割って入りました。
久慈さんの予想外の側面を知らされて高ぶり、いつも以上に酔っている様子。
「俺だったら見下す。ミミズ以下の奴隷にするな。あんなもの書いて、これまでみたいな偉そうな態度取れるのかって。ケツの穴舐めさせてやる」
一応サークルの長の言葉なので皆笑います。
もちろん苦笑。
内心では引いています。
「ちょっと面白がらないで。桃野君、本当に久慈君本人にバラしちゃだめだよ。米野さんが消されちゃうでしょ」
畑野さんが冗談めかして注意します。
が、目は本気。
桃野さんならやりかねないと思っているようです。
「お願いします。ここまで言った私がそう頼むのもおかしいですけど」
危険を感じたのか、米野さんも念押ししました。
「わかったよ。で、それが原因で別れたのか?」
桃野さんが面倒くさそうに返事をし、さらなる追求を始めました。
「そういうわけでは……。うん、でもそうかな」
と煮え切らない答え。