軌跡~ある教員サークルの興亡~111
その日、空は高くまで晴れ渡り、清々しくはあるものの、日差しにまだ夏の残りがあるため気温は高かったと記憶しています。
自分は米野さんと共に、学食の二階にあるカフェテラスでアイスティーを飲んでいました。
デートのように見えますが、まったくもって違います。
そんな色恋めいた関係が、米野さんと自分との間に築かれようはずがありません。
それは、学祭のミーティングのためでした。
「何か決めといてって、適当だよね」
米野さんはガムシロップもミルクも入れずに、アイスコーヒーを啜って言いました。
(苦そう……)とそれを眺めながら、「適当なのはいつものことだから」と答えます。
「またそういう投げやりっぽく正論を言うんだから」
そんな言い方をしたつもりはないのですが、その頃にはどうやら自分の話し方に問題があって、それが人付き合いの障壁になっていると気付きつつありました。
だから、そのやり取りも後でゆっくり検討しようと、心の中で付箋を付けてしまいこみます。
その週のサークル活動日に、模擬授業の検討が一通り終わった後で、「俺たちも学祭で何かしよう」と桃野さんが提案しました。
「一応サークルとして活動してるんだから、学祭にも参加する権利はあるだろ?」
「ないと思う」
畑野さんがすかさず言いました。
「学校側から認められていないんだから、屋台とかは出せないだろうな」
本須賀さんも追従します。
カップルだけあって、息が合っているように見えました。
「去年雑草研究会が金魚すくい出してただろ。あれだってサークルじゃないだろ?」
「野草研究会じゃなかった?」
畑野さんが言うと、「薬草研究会です」と久慈さんが冷静に訂正します。
「他にもサークルになっていない同好会が催し物を出しているのを見ましたね。ある程度人数がいて、活動もしていれば出店を申し込めるはずです」
推測にもかかわらず、口調が断定的なのはいつもと変わりません。
「でも何をするんですか?教員サークルで」
本条さんが常識的な問いを発します。
「それを今から考えるんだよ」
「今から?」
桃野さんの言葉に、本須賀さんが驚いて腕時計を見ます。
午後七時を回っていて、普段なら飲みに行っている時間です。
「ああ、違う違う。今日じゃなくて、学祭までの間にっていう意味。とりあえず二人か三人のチームに分けて、案を出し合おう。今はその班分けだけしようか」
そこで即席のくじが紙で作られ、自分と米野さんが組むことになったのでした。