人を容姿で判断する、その現実
高校までは男子校だったし、浪人時代は周りに女子はいたものの、ひたすら勉強をしていたので容姿について真剣に考えることはありませんでした。
うん、なかったはず。
あ、でも髪を茶色にしたりしたから、多少は外見を気にしていたのかもしれません。
なにぶん、前世のことなのでもう忘れつつあります。
精神病になる前のことなんて前世です。
全く価値観も世界観も変わりましたから、精神病前、精神病後で人生を分けた方が自分を語りやすいのです。
髪を染めたことでちょっと悪っぽい人に目を付けられ、といっても剣呑な話ではなく、「お?こんな気合のない奴らばかりの学校で茶髪もいるのか?お?お?」みたいな感じで見られて気に入られたのかな、そんな話です。
こちらもいずれは話しますが、今回はまた別の話。
とにかく大学に入学した当初、容姿については無頓着、着るものといえば親が選んだものという、絵に描いたようなイケてない男子でした。
それでも、人は中身が一番と思っていたし、社会=大学もそうなのだろうと考えていたのが大間違い。
そもそもその中身にしたって、ガラクタしか詰まっていませんでしたし。
そういった時に嫌でも容姿を意識させられた事件が起こります。
事件というほど大袈裟かな。少なくとも自分にとっては大ごとでした。
大学のサークルの勧誘で先輩男女二人と自分を含む新入学生二人の計四人でバーミヤンに行った時のことです。
何のサークルだったか、さっぱり覚えていません。
色々なところから勧誘を受けたので、記憶が埋没してしまっています。
ともあれ、先輩の驕りだというので、大学ってそういうものなのかなと、高くもなく、安くもない料理を頼みました。
そこで大学の雰囲気や高校がどこだったか、何を専攻するのか、第二外国語は何を選んだかとか訊かれました。
自分じゃない新入学生が。
こっちはほぼ無視です。
時々女の方の先輩が痛々しい目でこちらに「あなたは?」と、いかにも付け足しのように訊くだけで。
男の方はもう、気が利かないのか、こちらが気に入らないのか、両方なのか、本当に何も訊いて来ません。
だったらこっちだって話さないよ、と思い決め、黙々とチャーハンか何かを口に運びました。
食事も終わりに近付いた時、男の方の先輩が隣の新入学生にこう言いました。
「それにしても、君、格好いいね。服の趣味もいいし。君みたいな人が入ってくれると、うちも賑わうし新人を勧誘しやすくなるんだよね」
と。
その直後、彼はこちらをちらっと見ますが、そこに込められた視線に「お前と違って」という念が込められているのをビンビンに感じました。
本で読んで知ってはいたけれど、受けたことが無かった「蔑視」という視線。まさしくそれでした。
女の方の先輩も同調し、照れ笑いする新入学生と三人で盛り上がります。
今回はフォローなしです。
お手上げだと思ったんでしょう。事実お手上げのスタイルだったので仕方ないのですが。
そこで人生において初めて、人を容姿で判断する人種がいるんだ、と知りました。
今から思えばピュアだったんですね。
さすがに現在は社会にはそういう人が多くいるのも思い知っています。
良い洗礼になりました。
それから、一応コンタクトレンズを使ったり、服は自分で選んだりするようになりましたし。
結局誰からも認められませんでしたが。
ただ、やっぱり人を見た目だけで判断する人って下らないとは思っています。
見た目も大事ですが、中身もきちんと見る人、見てくれる人は魅力的ですし、そうなりたい。
容姿だけで判断する人って薄っぺらいです。
そういえば、そのバーミヤン話には続きがあります。
お会計の時、男の方の先輩が自分じゃない方の新入学生に「いいよいいよ、サークルの積立金から奢るから」と言いました。
その後に彼は、こちらを見て、それから女の方の先輩を見て「勧誘した人全員に奢るんだっけ?」と聞こえよがしに言うのです。
さすがに鈍感な自分も「あ、ここ出しますよ」と言い出すのを誘っているんだなと気付きました。
でも、同じ新入学生相手に同じ場でそんな差別をする人に何一つ譲りたくなくて聞こえないふりをしました。
女の方の先輩はさすがに哀れだと思ってくれたのか、「そうそう、奢るから」と言ってくれました。
思えば意地っ張りな時期でした。
今ならきっとそこまで突っ撥ねない気がします。
底辺の人間ですから、自分は。