軌跡~ある教員サークルの興亡~30
結局その日は六時半間で粘っても、白山さんは校舎から出て来ませんでした。
いくら目を皿のようにしていても、数秒間視点が外れることや、バスやトラックの往来で視界が塞がれることがあります。
その間に白山さんがこちらの監視の目をすり抜け、夕方の町の人波に溶け込んだ可能性も大です。
セルフサービスなのでトレイと空になったグラスとを返却台に持っていき、店を後にします。
駅から家へ帰る人、商店街へ向かう人、塾へ行く小学生、クレープを食べながら歩道を漂うカップル、色々な人がいるなと改めて思いました。
そしてストーカー見習いもここに一人。
風向きが変わったのか、すっかり涼しくなった外気に、まくっていたシャツの袖を下ろし、自分も家路に着きました。
四年前も同じ道を、同じような気持ちで歩いたのだと思い出しながら。
何にも属せず、ただ一人で、でも人恋しく感じていた。
変わっていません。
成長できていません。
四年間かけても。
二度目の待ち伏せの日、今度は全面ガラスの窓の前に、空いている席を一つ見付けました。
その日も暖かく、歩いていると汗ばむほどです。
暦はもうすぐゴールデンウィーク、夏の訪れも日光の加減や樹木の緑に兆しています。
季節が変わる前に、なんとか決着をつけたい、そんな気持ちがありました。
今回はアイスコーヒーを頼みます。
椅子に着いてまず一口。
(にが……)。
数年ぶりのブラックでした。
ひょっとして味覚がいつの間にか大人のものになっているかと期待したのですが、そんな都合のいいことはなく。
格好つけるのはやめにして、ガムシロップとミルクをドボドボ注いでカフェオレ状態に。
それでやっとおいしく飲めるようになりました。
さて、と予備校の出入り口に目を据えた時、右腕をトントンと指で叩かれました。