軌跡~ある教員サークルの興亡~41
駅までの道すがら、壁や店のショーウィンドウに手を付いて歩きつつ、染谷さんに尋ねました。
「染谷さんは弟いるでしょ?」
一瞬彼女は虚を突かれた顔をしましたが、なぜこちらがその問いを発したのかをすぐに理解して、「うん、二つ下と四つ下の二人。三人姉弟なの」と答えをくれました。
面倒見がいいはずです。きっと小さい頃、弟の手を引いて遊ぶのが日常茶飯事だったに違いありません。
こちらの手を抵抗なく取ったのも、その経験があったからだと思われます。
異性に擦れた感じではありませんから、それを見越したうえでの問い掛けたのです。
「河合君はお姉さんいるでしょ?それで、末っ子。違う?」
見抜かれています。
「二つ離れた双子の姉がいます。三人姉弟ですよ」
「へー、双子のお姉さんか。珍しいね。でも当たった。やっぱりね、お姉さんがいる人ってガツガツしてないんだよ」
「そうなの?ですか?」
同級生とはいえ、人馴れしていないので、会話の距離感が掴めず、おかしなところで敬語が混ざります。
片思いの相手に会う理由作りのために、湯島天神にまで行った自分をガツガツしていないと評するのはどうなのかな、と思いました。
でも、本当にガツガツしているのであればそんな遠回りをすることはないのだから、染谷さんの意見は正しくも見えます。
その日まで、サークルの飲み会はそんなには好きではありませんでした。
いや、サークルに限らず飲み会自体が苦手でした。
けれど染谷さんの模擬授業が幼稚だと言ったのを、飲み会のどさくさで許されるのであれば、その効用もあながち捨てたものではないと思い始めたのもこの時からです。
もっとも今では飲み会が大っ嫌いになっています。
飲んで性格が変わる人を信用できないし、事実をアルコールによってあやふやにしようとする場を作るのが馬鹿らしく思えるからです。
前々から狭量だと思ってきましたが、年月を経るにしたがって加速度的に度量が小さくなってきています。
とはいえ、うつ病の今、お酒を飲む機会などないのですが。