鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~88

 

が、その列車を見送ったのは間違いだった。

首都圏に住んでいると、電車が来る間隔をそれほど意識しません。

特に仕事や学校のない休日はそうです。

気にせずともダイヤは詰まっていて、待つほどもなく次の電車が来るのですから。

けれど、そこは違いました。

その時間、電車は一時間に一本。

逃すと、丸々一時間は待たなければいけなかったのです。

 

 

今のようにスマホで時刻表を気軽に見られる時代ではありません。

ケータイで調べれば出てきたのでしょうが、まだ通信料が高かった時期です。

ですから、そんな風に駅に取り残されるといった状況になってしまいました。

三人で顔を見合わせ、参ったね、との感想を共有します。

「どうしよっか」

畑野さんが本条さんと自分とを見ながら訊きます。

周囲には、蕎麦屋や酒屋はありますが、気軽に入って気軽に休めそうな場所がありません。

「とりあえず、駅へ行ってみませんか?」

本条さんの提案で、構内に入ることにしました。

改札はあるものの、出入り自由でホームにただ座って待っていなくてもいいような具合です。

今ではどうかわかりませんが、その時は駅に荷物を置いて周りを散歩することができました。

それでも炎天下の中を好んで歩こうとは思えません。

なんとなく三人並んで、ぽつぽつと話をしました。

 

その時に、畑野さんと本条さんが一茶記念館を選んだ理由を聞かされ、自分の存在を消したくなったのです。

会話のネタがいよいよ尽きた時、畑野さんが言いづらそうに口を開きました。

「一茶記念館に行きたいって言ったの、河合君だけだったんだよ」

最初、意味が分かりませんでした。

だって、こうして自分以外に二人も希望して来ているのですから。

状況を汲み取ろうと、本条さんの方を見ると、こちらからはやや視線を逸らしています。

ちょっと不自然な首の角度です。