鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~105

 

「ちょっとあっちの様子見て来ます」

片瀬さんが広間の方を指差してから立ち上がりました。

土屋君の様子を見に行くのでしょう。

残された四人は、あからさまに態度で表しませんが、ほっとしています。

あれだけ滔々と喋られると、その後の会話に困ります。

頭の回転が速い片瀬さんなので、もしかしたらそういった我々の心中を慮って外に出たのかもしれません。

 

 

「圧倒されちゃった」

畑野さんの素直な感想で場がほぐれました。

「ですね……。息つく間もないとはああいう状態のことかと体感しました。なんだか喉乾きました。皆さん、何か飲みます?」

S大学の先輩がテーブルの横にあったクーラーボックスの蓋を開けました。

ビールやチューハイ、ジュースが十本ほど入っています。

畑野さんが「じゃあ、ビール飲もうかな」と言い、ついでに「河合君は?」と訊いてきたので、「同じものを」と簡単に答えました。

本条さんは白桃サワー、S大学の先輩は梅酒を取りました。

様子を見に行っただけのはずの片瀬さんが帰って来ません。

畑野さんは一度それを気にして、明けたままの扉から広間の方へ目を向けますが、角度的に見えないはず。

とりあえずの仕草なのでしょう。

 

「乾杯しよっか。何にかわからないけど」

片瀬さんが広間組に取り込まれたとの判断を下したよう。

畑野さんの声に合わせて、それぞれ缶を持ち上げました。

「いやぁ、何だかしんみりしてきましたね」と述べたのはS大学の先輩。

「私は好きですよ。静かな雰囲気」

本条さんがゆったりとした口調で言葉を添えます。

「そうねぇ。私も同じ。特に何か無理に話題を見付けなくてもいっか」

片瀬さんの言葉の嵐がまだ余韻として残っているため、しばし休養の時間が必要なよう。

言葉は交わさなくとも、何となくいい雰囲気です。

適度な親密さが、会話のないのを不自然にしません。