鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~90

 

自分が沈んだことで、散発的にあった会話も皆無になりました。

ひと気のない駅で三人並んで座り、沈黙のホームにアブラゼミの声が間を埋めるように響きます。

ベンチの一番左に自分が座り、右隣に畑野さん、その隣に本条さんの順です。

女子二人が並んでいるのだから、こちらを無視して会話してくれればいいと願うのですが、そうはなりません。

女性がお喋りだという世間の噂は嘘なのかと、一般に流布されている情報に疑問を差しはさんだ時、本条さんがおもむろに立ち上がり、「少し、その辺を歩いてきます」と言いました。

皆で一緒に行きましょう、とは言わせない、決然とした言い方です。

止める間もなく、ホームで畑野さんと二人きりになってしまいました。

 

 

「河合君、寝てないんだって?今日」

気まずさを感じる前に、畑野さんが口を開きました。

こちらが徹夜したのを本須賀さんにでも聞いたのでしょう。

「途中、意識が途切れ途切れになったりしましたけど、ほぼ起きてました。徹夜ですね」

「眠いんじゃない?眠かったら寝ていいよ」

もちろん畑野さんは親切心からそう言ったのでしょう。

でも、いじけている自分には、「あなたと喋るのつまらないから、黙って寝てて」と裏の声が聴こえた気がします。

「そんなに眠くはないですが、寝てしまったらすいません」

我ながら支離滅裂な返答です。

畑野さんと、それから自分とを傷付けないための言い訳でした。

 

それでも、「わかった」と畑野さんはにっこり笑います。

その様子からは、こちらへの嫌悪は見えません。

だからといって気を緩めることはしませんでした。

大学三年と言えば、いい大人です。

世知に長け、嫌いな人といても相手にそうとは気付かせない処世術を身に着けていてもおかしくありません。

寝てしまうかも、とあらかじめ言っておいたのは結果的に良かったと感じました。

受け身に徹するのを暗に示し、自分から話し掛けずに済む態度であるからです。

それは、自分の都合のいい解釈ではあるのですが。