軌跡~ある教員サークルの興亡~112
「何か考えとけって言われても、学祭なんてまともに参加したことないから……」と米野さんに言いながら、暗い思い出が蘇ってきました。
高校二年の学祭の時、クラスでサスペンス映画を作ったことがあります。
出演は皆嫌がりました。
もちろん自分も。
でも、あれよあれよという間に準主役級の刑事役にさせられてしまいました。
いじめられつつ、更にもっと目立つポジションに置かれる。
地獄でした。
ストレスが最大限まで高まり、円形脱毛症になったほど。
本当にきれいに丸く、そこだけ髪の毛がなくなるのです。
思い出したくない過去の出来事です。
「教員サークルだから、真面目なものがいいよね?」
米野さんが手帳とボールペンを手に取り、やる気のある姿勢を見せるので、自分もリュックから何かの授業で配られた裏が白いプリントと筆記具を出します。
「真面目と言っても、模擬授業を体験するとかはつまらないでしょ」
そう口にしているそばから、(なんて下らない事をいっているんだろう)との思いが湧きます。
ですが、米野さんは「それもありじゃない?」とメモを取ります。
本当に「あり」と思っているかは別として、表面上だけでも意見を容れてくれたことを嬉しく思います。
いい子なんだ。
そう思います。
でも、どうしても恋愛対象にはならない。
「不健康そのものの体だった」
合宿で、片瀬さんが米野さんと一緒に入浴した時の感想です。
それを夏休み明けに、土屋君を通して聞きました。
「欠食児童みたいに骨張っていて、でも胸だけは服を着ていた時に想像していたよりは大きかったらしいぞ。変なバランスの体だって。米野さん、野菜を全く食べないし、偏食がすごいだろ?そのせいじゃないか」とも彼は言いました。
(胸だけあってもなぁ……)
普通の状態でグラマラスな片瀬さんが大きいと評価した米野さんの胸。
余程立派なのだと想像が膨らみます。
でも、やっぱり痩せ過ぎです。
それに異性ではなく、サークルと言う名の家族の一員のように見てしまい、どうしても恋愛感情は湧きません。