鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~128

 

その日のサークル活動は、仁部さんが早速模擬授業を担当しました。

本条さんが褒め称えるだけあって、彼の授業進行は滑らかで、生徒役のメンバーの意見をうまく引き出し、即座にそれを講義内容に織り込む手腕など現代国語の教師として理想的です。

こんな教師が高校の時にいたらよかったのにと思えるほど。

また、自身の模擬授業の成功を誇る態度もまったく見せず、次に生徒役へ回った時も講師役に気の利いた質問を投げ掛けます。

目の付け所がユニークで喋り方に洒落っ気があるのですが、彼の丸っこい風貌が愛嬌となり、鼻に付く感じにはなりません。

 

飲み会に流れた後も仁部さんは話題が豊富で、また本条さんの言っていた通り人の話を引き出すのが上手く、確かに彼には人間的魅力がある気がしてきました。

これで見た目が良ければ相当モテるだろうに、と思えます。

天はそれほどたやすく二物を与えないよう。

とはいえ、このような人ならば畑野さんの前の男でもいいか、と偉そうな目線から納得したものです。

 

 

その日は仁部さんが復帰したために、珍しく二次会が開催されることになりました。

カラオケに行くというので、自分は固辞します。

何故だか生理的にカラオケを受け付けないのです。

高校の時の授業で皆の前で歌うというテストがあり、緊張と恥ずかしさのため一音も出せなかったのがトラウマになっています。

そのせいかもしれませんし、そもそも歌を歌うのが苦手だというのもあります。

歌は聴くもの。

それも、プロが歌うものをです。

そこらの一般人の歌は、どんなに上手いと言われても聴くのは苦手でした。

歌唱は伝統工芸と同じで、素人が手を出すべきでない分野に整理されています。

 

いつもなら自分が嫌だと言っても桃野さんが強引に店へ引っ張っていくのですが、前回のこともあり、その夜は簡単に放免してくれました。