鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~126

 

そのようなことがあった次のサークル活動日、気まずいし、気が重くはあります。

酔った勢いでしたことならば冗談に出来るでしょうが、あの夜、自分は明晰と言ってもいいほど意識を正常に保っていました。

土屋君提案のヨーグルト被膜の霊験によるものでしょうか。

(桃野さんや皆に何か言うべきか……)

考えますが、良い案が出て来ません。

だからと言って、謝るとの選択肢は検討すらしませんでした。

自分が悪いことをしたとは一切考えていませんでしたし、実際そうだと思いますから。

どんな小さな衝撃でも折れてしまいそうな今からすれば、我ながら立派だと見えてしまいます。

ですが、たとえこれからもし心が強くなっても、あの夜のような衝突を引き起こしはしないでしょう。

もっと婉曲的に、搦め手から事を収束させようとするはずです。

賢くなった気はしないので、要は狡くなったのでしょう。

 

 

集合場所へ行くと、もう大体のメンバーは揃っていました。

学生ホールの長机に六人ほどが座り、残りは近くの壁に寄り掛かったり、立ったままお喋りをしています。

本条さんの隣に、顔も体も風船みたいに膨らんだ丸々と肥えた人が、その場に溶け込むようにして座っているのが見えましたが、メンバーの中の知り合いが偶々そこにいるのだと推測し、それ以上気にしませんでした。

「おう、河合。来たな」

意外にも桃野さんが一番に声を掛けてきて、しかも顔には満面の笑みが浮いています。

「良かったよ、来てくれて。もしお前が来なかったら、俺が辞めようと思ってたんだ」

重いことを軽い口調で言ってくれます。

そこまで思い詰めさせてしまい、申し訳ない気もしました。

が、先述の理由により、やはり謝りはしません。

ただ、「はあ」とどうしたらいいかわからない時用の、害のない口調でもって答えました。

 

「なんだ、すごい突っ張った子が来ると思ってたけど、大人しそうじゃないか」

先ほど気になった風船男がそう述べたので驚きました。

「河合は初めてだっけ?こいつ、仁部。俺と同じ三年の国文科。幽霊部員だったけど、今日になって来たいって言うから連れて来た」

仁部さんと言えば、夏休みに一茶記念館近くの駅で本条さんと話し込んだ時、彼女がやたらと褒めそやしていた先輩です。

「初めまして、よろしく」

そう言って仁部さんはテーブルの縁を手で握り、体を前傾させてお辞儀をしました。

その角度が浅かったのは畏まるのを避けたのではなく、ただ単にお腹がテーブルにつかえただけだというのを見逃しませんでした。

 

良いものをたっぷり食べているためか、必要以上にさらさらのおかっぱの髪が、彼の動作に合わせて丸い頭の上を流れます。

何か企みがありそうな細い糸目に、ノーフレームの眼鏡を掛けています。