軌跡~ある教員サークルの興亡~129
同じ週の金曜日の午後、土屋君と共通で取っている講義があり、それが終わると「茶でも飲みに行かないか」と誘われました。
(まるで友達同士みたいじゃないか)
それくらい自然に誘ってくれるので、彼が本当に自分を友達と見てくれていると感動します。
いちいちそう動揺しているのを見せると、単なるおかしい人なので平静を装い「うん、いいよ」と答えました。
行ったのは大学からほど近い駅前のドトール。
ロイヤルミルクティーを注文し、それを持って二階の窓際の二人席に陣取ります。
「禁煙席の方がいいだろ?」
と喫煙者の土屋君が気遣ってくれました。
彼の手元にもこちらと同じ飲み物があるのが、何とはなしに嬉しく感じます。
「まだあっついな」
長袖のシャツの袖をまくりながら彼が言いました。
「うん」
上手い返しをしようとして失敗するのが怖くて肯くだけ。
今でも治っていない人付き合いの下手さの表れです。
土屋君は紙の袋をちぎり、ストローを取り出します。
「うん、自分もそう思う」
と地味な嘘をつきます。
他でロイヤルミルクティーを飲んだことがないのですから。
それでも彼は「だろ?」と笑顔を見せてくれます。
「俺と河合は結構趣味が重なるな。村上春樹とか、X JAPANが好きなんだろ?俺もそうだ」
村上春樹を好きなのは、合宿の夜に女子部屋でそう話していたのを片瀬さんから聞いたのでしょう。
ですが、X JAPANを好きなのは一体どこで仕入れたのか疑問符が浮かびます。
「お前の英語のクラス、名簿を作っただろ?遠足のしおりみたいな。あれを見せてもらった時にそう書いてあったからさ」
土屋君はすぐに答えをくれました。
そう言えばそんな冊子を作った覚えがあります。
国文科の英語の授業は同学年の生徒を四っつに分けたグループ制になっていました。
なぜだかうちのグループは仲間意識が強く、他では作っていないそのような名簿を作成したのです。
今ならば、SNSのグループで繋がるイメージでしょうか。