別れ 前編
「さよなら」
薄く涙を浮かべた彼女はそう言って、長い髪をはためかせながら後ろを向いた。一度も僕を振り返らず、小さな背中は人並みの中に消えていった。
そんな別れ。
ありませんでした。
考えてみれば、人と正式に別れた記憶がありません。
死別は別としてですけれど。
なぜそうなったのかというと、答えは簡単で人とまともに付き合ったことが無いからです。
性格に難があって、人ときちんと向かい合うことが出来ないのです。
とある人格障害気質なので、仕方ないし、そもそも向き合いたいと思いませんし。
でも、そんな自分でも後悔している別れがあります。
大学で、たった二人だけ仲良くなった友達がいます。
A君とB君とします。
奇妙なことに、A君はB君を嫌っていたし、B君はA君を嫌っていました。
自分から見れば、二人ともそれぞれに良いキャラしているのに。
第三者から見ると、もしかして、自分が二人の間にいるから、A君とB君はこちらを独り占めしたくて嫌いあっているのでは?と思ってしまうかもしれません。
ですが、それは無い。
自信があります。
自分にそんな魅力はないですから、ただA君もB君もそれなりに鼻につく部分を見てしまっていたのでしょう。
B君のことはいずれ書くとして、今回はA君のことです。
彼とは大学一年の英語の授業が一緒でした。
A君は誰とも慣れ合わず、いつも一人で教室の椅子に座っていました。
自分は大学一年の初期は頑張って友達をたくさん作ろうとして、仲良しグループを作るグループに属していました。
仲が良いのではなく、これから仲良くなろう、というグループです。
けれど、根が暗い自分です。
そんな大学デビューみたいなことはできず、やはりぼっちになりました。
そういった時に英語の授業で、英会話が行われることになったのです。
二人一組になって、講師が出したテーマについて英語で話してみよう、と。
なんてどうしようもないことをさせるんだと思いましたし、今も思っています。
二人一組で何かをさせるなんて、高校で、いや、小学校でもうやめにしましょう。
一人でしかいられない人間だっているんです。
ここに。
中学の時もあってつらかったし、高校の時なんで思い出したくもありません。
でも、言われれば仕方ない。
単位のために、誰かと組まなければと教室を見回した時にA君と目が合ったのです。
いざ話してみると、彼は決して暗くなく、横暴でもなく、かといって根暗なわけでもなく、どうして友達を作らないのかわからないくらい気さくな人でした。