軌跡~ある教員サークルの興亡~66
「最初から興味はあったんだよ、河合のこと。同じ学科の、他の奴らとは違うなって」
土屋君はタバコに火を点けました。手付きからして、最近喫煙を始めたのではなさそう。
仕草に年季が入っています。
大学デビューで吸い始めたのじゃないでしょう。
未成年なのでアウトですが、それを言うなら今アルコールを飲んでいる自分もアウトです。
「でも俺は人を判断する時、まず嫌いから入るんだ。その後、付き合っていくうちに加点減点していくやり方をしているから友達ができづらい」
そういう付き合いもありなのか、と印象に残った言葉でした。
ある意味、自分が人付き合いにおいて絶望から入るのと似ています。
相手に対し絶望しているのでなく、そもそも自分とまともに付き合ってくれる人がいないと悟っているのです。
だから人からの優しさや思いやりを受け、距離が縮まっても、その人との間には深い深い絶望の淵が走っています。
決してある一定以上の距離には近付けないよう、自分の人生がセットされていると考えていました。
能天気に性善説を信奉し、初対面の人とも打ち解ける人は自分と異なる星の住人に思えたものです。
そういった意味で、土屋君との人付き合いの信条は、端っこの辺りが重なっていたかもしれません。
「そんなだから友達いないんでしょ」
片瀬さんも結構はっきり言う人です。
それにしても、四か月同じサークルにいて、この片瀬・土屋コンビとまともに話したのはこの時が初めてという事実。
もしかして嫌われているのかと、うっすら思ったことがあります。
土屋君の話を聞く限り、自分のその予想は的中していたわけです。
嫌いから入っているのですから。
彼が全員に対し、同じように嫌っていると聞かされても、ショックはショックです。
そう感じるのは、自分の絶望が足りていないことの証明でもあるので、どっちもどっちという気もしますが。
「友達いないの?」
そういえば、土屋君が片瀬さん以外の人と一緒にいるのを見たことがない気もします。
「いないなぁ。話はするけど、友達って思える奴はいなかったな」
彼は煙を吐き出し、それが天井へ上っていくのを遠い目で見つめながら答えました。