鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~52

 

車は不勉強なので車種は分かりませんでした。

マーチとかその辺の、町でよく見かけるタイプの車だったと記憶しています。

前述したとおり、本須賀さんがハンドルを握り、助手席には畑野さん、その後ろが空いていて自分が座り、運転席の後ろ、つまり自分の右側には米野さんが既に乗っていました。

三人は千葉寄りの東京に家があって、互いにご近所と言える距離なのだそうです。

 

 

ということは、わざわざ自分のために渋谷まで車で来てもらった形になります。

そう聞いてしまっては、不機嫌でいることも理不尽で、「待ち合わせ場所にうまく行けなくて、すいませんでした」と折れました。

小さくなった自分を見て溜飲が下がったのか、本須賀さんは「駅近くのコインパーキングでも見付けて、河合とはハチ公前とかで待ち合わせをすればよかったな」と、自慢気な目をバックミラーの向こうから送って来ます。

「もっと早く思い付いてください」と言いたいのを抑え、「あ、その手がありましたね」と感心して見せました。

同級生に友達がおらず、もちろん恋人もいず、残ったのはサークルメンバーだけです。

この繋がりが切れたら、大学で話す相手がいなくなるわけで、それだけは阻止したいとの思いから生じた演技です。

 

スキゾイドの人は、基本的に自分とそのごく近くのものにしか興味が無いので、人と関わることを苦手とします。

ましてや人と「滑らかな」関係を築くなんて、海の底の砂で城を作ろうとするようなものです。

かなり無理があり、演技もぎこちなかったはずですが、視界がバックミラーだけだったためか、内心を見透かされずに済んだようです。