軌跡~ある教員サークルの興亡~53
お台場へ行くというので、昼食や間食の食べ歩き、予想できない遊び、果ては夕食まで、いくら使うのだろうと戦々恐々でした。
ATMは週末で手数料が取られますが、念のために二万円を下ろしておきました。
普通はどこへ行くかを聞いて、前もって予算を準備するのでしょうが、余計な質問をして煩わしいと思われたくなくて、それができません。
人付き合いに不慣れな人間って、こういう所で損をしていると思わせられる一コマです。
そんな心配をしている側から、本須賀さんが「とりあえずメシでも食うかぁ。十二時には少し早いけど、今ならそう混まないだろうし、適当なファミレスでいいよな?」と提案します。
畑野さんや米野さんが、「いいよー」、「はい」と返事するのを確かめた後、自分も「そうですね」と続きます。
どこを走っているのか分かりませんが、道の先にバーミヤンの看板が見えてくると、「あそこでいいんじゃない?」と畑野さんが言い、車はその駐車場に入りました。
ほっと胸をなでおろす自分。
先輩とはいえ大学生。
そこまでこちらと金銭感覚が異なるのでもないと知り、安心と共に、なかなか他人に対して持たない親近感すらも湧いてきました。
昼食が済むと、いよいよお台場に向かいます。
車中では、再び米野さんと久慈さんとの付き合いがどんなものであったのかが話題となりました。
さすがに昼間から生々しいことは聞けませんが、常時冷静な久慈さんが、二人きりになるとどういった言葉を発するのか、どういった態度に変わるのかと、興味が尽きないのです。
「二人でいても、本当にあのままです」
米野さんが憤然と答えます。
「いつもお説教されている感じでした」
「亭主関白っていうやつか」
本須賀さんが問うと、米野さんは首を振ります。
「そういうのでもないです。女は黙って男についてこい、といったタイプではないです。うまく言えないんですけど……、多分、調教という言葉が一番近いと思います」
「なるほど、久慈らしいな……。容易に想像がつくよ。甘えたりはして来なかったのか?」
タクシーのように丁寧なブレーキをかけながら、本須賀さんがさらに訊きます。
「久慈さんが?私に?ですか?これっぽっちもないですよ!そんなの」
ブンブン首を振る仕草と言い、喋り方と言い、面白い子だなと思い、笑ってしまいます。
仲間と一緒にいるって楽しいな、と数年ぶりに感じました。
最後にいつそう感じたのか覚えていません。
下手をしたら、小学生の頃だったかもしれない。