軌跡~ある教員サークルの興亡~55
「どんなイメージって、こう、積極的な……。欲しいものは絶対手に入れるような……」
(ガツガツとした)とは敢えて言いません。
「んー、そうなのかぁ。奥手ではないと自覚してるけど、欲しくても諦めるものはあるし、何でもかんでも手に入れようとはしないよ」
と米野さん。
「そう……?」
「疑ってるぅ……、本当なのに。でも、恋愛に対しては積極的なのかな。その久慈さんについてだけどね、サークルの飲みの後、ちょっと二人だけがみんなから離れた瞬間があったの。
その時に『私のこと、好きなんですか?付き合っているのなら好きって言って下さい』って迫ったんです。
ほら、ちょうど河合君が桃野さんにリュックを頭に投げつけられた位置です。
それで久慈さんは、『ああ、好きだよ』って言ってくれました。
……無理矢理言わせた感じはありましたけど」
「野獣だな」
本須賀さんが一言で片付け、車内に笑いが溢れます。
青春、そんな言葉が頭をよぎります。
まるで縁のないものだと認識していたのに。
お台場に着くと、四人でダラダラと移動しましたが、周り中カップルだらけです。
よくもまあ、これだけの男女ペアがいるものだと半ば感心し、半ば羨ましがりながら周囲を見回していました。
羨望の念をまだ持っていた時代。遠い昔です。
美男美女から、その対極まで取り揃えられており、共通しているのは皆が幸せそうなことです。
そんな中にあって、我々は周りからどう映っているのだろうと、自らを省みます。
本須賀さんと畑野さんが前に並んで歩き、それを自分と米野さんが追う形。
外から見れば、米野さんと自分はカップルとして見えるのかもしれませんが、自分の中に異性と歩いているとの浮き立った気持ちはありません。
少なくとも自分にとって、米野さんを異性と意識できない壁が厳然と存在していました。
それは、やせぎすな体であったり、そんなには可愛くない容姿であったりとの外面上のものよりも、彼女が久慈さんにみせた積極性ゆえだったと思います。
あまりに強引なのは、はしたない、そう感じていたのです。
女性は奥ゆかしく、そんな昭和の遺産的価値観を保持していた自分です。